『エターナル・サンシャイン』

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ミシェル・ゴンドリー監督と「マルコヴィッチの穴」の脚本家チャーリー・カウフマンが、2001年製作の「ヒューマンネイチュア」に続いてタッグを組んだ奇想天外なラブストーリー。
互いの存在を忘れるために記憶除去手術を受けたカップルの恋の行方を巧みな構成と独創的な映像表現で描き、2005年・第77回アカデミー賞で脚本賞を受賞した。バレンタイン直前にケンカ別れしたジョエルとクレメンタイン。ある日ジョエルは、クレメンタインが自分についての記憶をすべて消してしまったという手紙を受け取る。ショックを受けたジョエルは手紙の差出人ラクーナ社を訪れ、自らも彼女についての記憶を消すことを決意する。
ジョエルを「トゥルーマン・ショー」のジム・キャリー、クレメンタインを「タイタニック」のケイト・ウィンスレットが演じ、「スパイダーマン」シリーズのキルステン・ダンスト、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイライジャ・ウッド、「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」のマーク・ラファロが共演。
公開20周年記念ということでの4K上映。
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とはいえ4K上映館数は限られているわけで、自分が行けたのは通常の上映形式でしたが重要なのはそれ以上に劇場で観られるということ。
そもそもこの映画は個人的生涯ベスト10には入ってくる作品なので劇場で観られるとあれば再鑑賞必至。
そんなわけで年末に行ってきたのですがなんと始まる直前に劇場を見回すと観客は私一人。
それなりに映画館には足を運んでいる方だと思うのですが、完全に一人というのは生涯初の機会。
その時点エモさこみ上げる館内にて、しみじみと作品に没入していく。
内容も意外にうろ覚えなところもあり、さらに時系列、映像的交錯が思考を掻き乱す。
様々に散りばめられた伏線への気付きの多さ。今ならば気付けるところもあり、疑問に思えば調べられるというのも現代ならでは。
まず原題の『Eternal Sunshine of the Spotless Mind』というのがアレクサンダー・ポープの詩である
How happy is the blameless vestal’s lot!
The world forgetting, by the world forgot.
Eternal sunshine of the spotless mind
からの引用であり、記憶を失うことで得られる安らぎというものを皮肉っているという映画のテーマそのものだということに驚きが生じる。
調べるきっかけとして、終盤でのスタンとメアリーによるアレクサンダーのくだりがあったのですが、まさかそこから伏線は始まっていたのかと。
ちなみにLacuna(ラクーナ)社はラテン語で「空白」「欠落」を示しているそうで、これまた皮肉に満ちている。
時間軸の道しるべとして、クレメンタインの髪色演出もそうで、以前よりくっきりと浮かび上がってくることも感慨深い。それにより物語とのリンクが鮮明に垣間見える。
オレンジ:ジョエルと出会った頃(好奇心・高揚)
ブルー:関係が安定〜停滞(内省・孤独)
グリーン:別れが近い頃(不安・苛立ち)
にくい演出としてはブルーの使い方。
再会する時も髪色はブルーなのですが、この色味が作中の場面により異なるという細やかな抜かり無さもさすがといったところ。
別れが近い頃の不安さを残したグリーンを含んだようなブルーが別れる前なのに対し、再会の時には澄んだブルー。
透明感のある色味で景色とも良く馴染み、ゆえに瑞々しい気持ちの新たなる始まりを予感させる。
こうした余白が映画のエンディングや細部とも結び付き、観るものに委ねられるというのも本作の良き点。
混沌とした映像のコラージュ、CGをほとんど使用していないという演出のアイデアと創造性も大したもので、ミシェル・ゴンドリー監督の思考をごった煮にする、ファンタジー作品というのが本当にツボ過ぎる。
理解よりも想像を。
恋愛とそうした考えの相性の良さもあり、本作は群を抜いて好きな作品のわけですが、観るタイミング、年齢による恋愛との距離感、人生というものの距離感が作品との関りを濃密にしていく。
アイデアとしてはSF×恋愛という至極ベタにして発想も同様。それなのにその中での会話や有り体では無い出会い、接近、別れ、再会。
全てに意味があり、全てに意味を見出せていなかったということを知らしめてくれ、本当に光を当てなければならなかったものがなんだったのかという微細な鉱脈を見出させてくれる。
何事も良い部分は忘れてしまい、嫌なことは誇張した残滓を残す。
でも、考えてみればそれら全てが混然一体となって思い出という形となっており、その人そのものを構築しているんですよね。
自分を構築しているファクターとしての陰と陽というのは双方必須。全てが地層のように重なり合い、だからこその今があると思えば全てがかけがえの無いオリジナルのストーリなんですよ。
当たり前でいて忘れがちな感覚を、恋愛という熱量が最高に高まる事柄を中心に物語が進行し、あたかも自分の経験と琴線が触れるかの如く共鳴していく。
序盤から終盤への端的な円環構造になっていない絶妙な円環構造を保っているというのも魅力で、人生の、恋愛の寄る辺なさが映像や会話を元に構成されていく手腕もお見事。
恋愛における真骨頂、昨今はマッチングアプリやSNSなどを通したデジタルでの出会いに埋没した現実の希薄さに溢れる中、趣味が合うとか、好みが一緒だとか、価値観がどうとか、そんなことすら関係ないのかもしれないと思わせる偶然の出会いが実を結ぶリアルを指し示す。
まさに偶然の、ふとした事柄による、人間関係の発露こそがかけがえの無い関係性を得られるというのもまた勘違いなどでは無く、本当にその通りなのだと、今なら自信を持って言える。
”伝染”が生じ、互いに共鳴することからお互いの関係性がいっそう強固になり、かけがえの無さへ集約される。
サウンド面でも改めて秀逸さを感じるところで、担当しているのはジョン・ブライオン。
『パンチドランク・ラブ』『脳内ニューヨーク』といった作品でも手掛けており、本作での仕事は本当に素晴らしい。
まずメインとなるサウンドが存在しておらず、その作品における絶対的なものの不在ということと対をなしているような錯覚を起こさせる。
感情の高まり、映像的な盛り上がりとサウンドのそれが反比例的な印象をブラッシュアップしており、作品の不均衡なチグハグ感、不確かな未来などがサウンドのコラージュからも連動し、不安定な気持ちをトレースさせてくれる。
「Everybody’s Got to Learn Sometime」の使い方も痺れるところで、原曲のThe Korgisによるもので無く、Beckによるカバーを使用しているのも気が利いている。
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映画用に収録したようで、BECKの乾いた声質と抑揚の削ぎ落された寒々しさが余計に響き、監督曰く「感情を煽らない声」を求めていたとのこと。
確かに質感含めなくてはならない楽曲となり、個人的にもこの映画の印象を大きく左右するのはこの楽曲によるところが大きいというのは間違いない。
歌詞としてもそう。
視点を変え、学びを経れば見方も変わるというような内容ながら、それらを経ても、もしかしたら変わらないこともあるかもしれないという、これもまた皮肉的見解が内包されていると考えると余計に深い。
[Verse]
Change your heart 気持ちを切り替えて
Look around you 周りを見てみて
Change your heart 気持ちを切り替えて
It will astound you そしたらビックリするから
[Pre-Chorus]
And I need your lovin' like the sunshine 僕には君の愛が必要なんだよ、太陽と同じで
[Chorus]
And everybody's gotta learn sometime そして人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
[Verse]
Change your heart 気持ちを切り替えて
Look around you 周りを見てみて
Change your heart 気持ちを切り替えて
It will astound you そしたらビックリするから
[Pre-Chorus]
And I need your lovin' like the sunshine 僕には君の愛が必要なんだよ、太陽と同じで
[Chorus]
And everybody's gotta learn sometime そして人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
[Instrumental Break]
[Pre-Chorus]
And I need your lovin' like the sunshine 僕には君の愛が必要なんだよ、太陽と同じで
[Chorus]
And everybody's gotta learn sometime そして人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
Everybody's gotta learn sometime 人はいつか学ばなきゃいけないんだ
それから衣装。
古着への傾倒、他者と異なるファッションへの憧れ、自身のスタイルにおいて、間違いなくケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインの影響があったことを思い出させる。
外見は内面の表れといった単に表層的なことだけでなく、内面の繊細かつ潜在的なところから湧き出るようなファッションの表出。
喜怒哀楽、感情の浮き沈みで動く彼女ならではセンスと、対比される形でのジョエルの変わらぬ地味さが際立つ。
性格的な違いや立ち位置の違いというのが表れているのもセンスが光る仕掛けとなっており、抽象度と内面の複雑性が混在する。

担当は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『もう終わりにしよう。』『スリー・ビルボード』などを手掛けているメリッサ・トス。
さらりと個性を出したような着こなしが目立つ作品が多く、これもミシェル・ゴンドリーとの相性の良さが映える。

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生涯ベストは生涯更新されていくわけですが、やはりこの作品の強さは自分の中では確固たるものに近い。
冬の良き日に良き思い出とこれからと。
では。