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『おもひでぽろぽろ』が示す“思い出の意味”――忘れていた日常こそ人生を形作る

おもひでぽろぽろ

ポスター画像


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火垂るの墓」の高畑勲監督が、岡本螢・刀根夕子原作の同名コミックを映画化した長編アニメーション。

1982年、夏。10日間の休暇を取った27歳の会社員タエ子は、姉の夫の親戚が暮らす山形へ旅に出る。東京で生まれ育った彼女には、小学5年生の時、田舎がなくて寂しい思いをした記憶があった。旅の途中、彼女は当時の懐かしい思い出を次々と蘇らせていく。小学5年生の自分を連れたまま山形に到着した彼女は、親戚の家の息子トシオや農家の人々と触れ合う中で、本当の自分を見いだしていく。

主人公・タエ子の声を今井美樹、トシオの声を柳葉敏郎がそれぞれ演じた。

何年ぶりだっただろうか。

高畑勲作品では「かぐや姫の物語」を観たのが最後だった気がするのだが、正直、そこまで好きという感覚は無く。

今にして思えば本作も同様の感覚だったのかもしれないが、何故かふと観たくなり手に取ってみた。

OPから線の細い独特な描写、水墨画のような彩度の薄いトーン、アニメーションとしての不可思議さと、高畑ワールドならではの渾然一体となった独特な世界がさっそうと広がる。

町並みやビル群に関しての都内的描写はパキッとし、アニメーションの動きもどこかキレが宿る。

その対比を見せられた序盤で釘付けに。

ストーリーも朧気な印象しか無く、手探りで思い出しながら観ていたものの、それ以上に惹き込まれるものがありといった感じで。

物語としては小学校5年生の自分と現在の自分をカットバックする形で進行していくわけですが、その見せ方、表現のシームレスさといったら。

誰しも”思い出”と名の付くことは記憶の片隅にあって、思い出すのはわずかなこと。

意外にも貴重だったり、重要だったりすることよりも、くだらなかったり、他愛もない日常の方が覚えているもの。

間々ならなさこそが貴重で、忘れがたいことになっていくということを明示しているような気がして、だからこそ今観ると響くのではないかとも思えてくる。

学生時代なんて、兎角早く過ぎてほしいことや鬱屈とした日々から脱却したいというような思い、もしくは単に何も考えずにただ毎日を過ごしていたなんてことが当たり前だった。

まさに作品内のタエ子同様、なんとなくという日々を送っていたわけです。

それでも当然何かを考え、悩んでいたわけで、世界の見え方、感じ方も人それぞれ。

それなのに周りの大人達というのは横並びで一般論めいた事柄、行いしか認めず、その振る舞いにすら気付いていない。

ここが一番グッと来るところであり、義務教育という観点から見れば、そうした画一的な教育や指導というのも然るべきなのかもしれないなと。

でも、個人としてみれば、もう少し認知を広げた大局で判断し、柔軟性を備えることも必要なのかもしれない・・・と。

そのようなことをうっすらと思いつつ、タエ子自身も大人になり、そんな自分を顧みながら、本当の自分というものについて向かい合ったりしなかったり。

そんな過程や道中においての映像表現というものが素晴らしく、ノスタルジー一辺倒にならない独特な空間認知、”空気感をそのままパッケージしたような”映像的空間がそこにある。

町並みの景観、看板や店先の雰囲気、出てくる人々の風貌、匂いさえも漂ってきそうな生活感。家の中の、学校の、それぞれの全ての箇所が纏っている雰囲気そのままに、それが眼前にあると錯覚してしまうような見せ方。

これって、ジブリあるあるなところですが、細部に心血を注ぐからこそできるディティールの賜物。

微細な動きや繊細な表現、抜かり無いこだわりが魅せる映像の極地。

アニメだから出来るわけですし、技術や機材が揃っていれば出来るというものでもない。

だってもしそれらが揃っていれば出来るのであれば、日進月歩している今の方が圧倒的にアニメーションの技術は上がっているわけで、それの方が以前のものより良いに決まっているはず。

それなのにそうならないというのはそれ以外の要素によって良し悪しが変わってくるということ。

その世界観を垣間見たというか。

終盤でトシオが「この辺の土地も、町並みも大抵は百姓が、人間が試行錯誤の末、形成してきた」というようなセリフがまさにそれで、今までの積み重ね、歴史こそが今の何某を形作っている。

そう考えると個人で言う”思い出”、社会で言う”歴史”というのは蔑ろにするべきではないのかもしれない。

意味があったか無かったかでなく、結果的に全て意味があったというようなことなのかもしれないな、なんて。

そうした意味の無さから脱却し、意味のある世界へ、その断片が散りばめられた映像的世界。

夏はなぜこうした気持ちを刺激してくるのか。

爽やかに前向きになれる傑作。

余談ですが、少々小ネタも。

■制作・演出に関する小ネタ

・初の“大人向けジブリ映画”

おもひでぽろぽろ』はジブリ初の 「大人の女性」を主人公 に据えた作品。少女時代の回想が中心でありながら、30歳の女性の「自分探し」が主軸という構成は異色。

 

・原作は完全に小学生時代のエピソードだけ

原作(岡本螢・作/刀根夕子・画)は小学5年生の回想シーンのみ。映画の現代パート(大人の主人公)は 高畑勲監督のオリジナル要素。

 

・リアルな演技を追求するために“実写”のような手法

セリフ収録を アフレコではなく“プレスコ”方式(先に声を録ってそれに合わせて作画)で行った。これにより自然な“間”や話し方が演出されている。

 

・背景美術の描写が異常に緻密

高畑監督が目指したのは「リアルな東北の農村」。アニメーションでは珍しく、実在の風景に忠実な再現がされている。

 

・タエ子の回想シーンだけ“絵が淡い”のはなぜ?

子ども時代の記憶は曖昧だから、という演出意図から、背景の色彩や線が淡くぼやけている。まさに“ぽろぽろ”とこぼれる思い出の表現。

 

■ 声優・音楽に関する小ネタ
・タエ子の声は“女優”今井美樹

声優ではなく女優を起用。自然体の演技を重視した高畑監督の意向。ちなみに 子ども時代のタエ子は本名陽子(『おジャ魔女どれみ』のどれみ役)。

 

・挿入歌は“ブルガリアン・ヴォイス”

東北の農村の厳しくも美しい自然を表現するために、**ブルガリア民謡「ポリフォニー合唱」**を多用。ジブリ作品で民俗音楽がここまで前面に出たのは珍しい。

 

■ 作品テーマ・隠れた見どころ
・タイトルの意味は「ぽろぽろこぼれる思い出」

漢字を使わないのは、やさしく淡い感情の象徴として、視覚的にも「思い出」に重くならないように工夫されている。

 

・東京 vs 地方、現代 vs 昭和という対比

現代の都会で働く女性の葛藤と、田舎の素朴な生活のコントラスト。自分らしい人生を選び取る勇気が静かに描かれている。

 

・高畑監督が“泣かせ”を徹底して避けた

ジブリ作品にありがちな感動の押しつけはなし。**“泣かせないけど泣ける”**映画を目指して作られた。

では。

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