『ブゴニア』

「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」などで知られる鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、これで5度目のタッグとなるエマ・ストーンを主演に迎えて描いた誘拐サスペンス。
「エディントンへようこそ」「ミッドサマー」の監督アリ・アスターがプロデューサーに名を連ね、2003年の韓国映画「地球を守れ!」をリメイクした。
世界的に知られた製薬会社のカリスマ経営者ミシェルが、何者かに誘拐される。犯人は、ミシェルが地球を侵略する宇宙人だと固く信じる陰謀論者のテディと、彼を慕う従弟のドン。2人は彼女を自宅の地下室に監禁し、地球から手を引くよう要求してくる。ミシェルは彼らの馬鹿げた要望を一蹴し、なんとか言いくるめようとするが、互いに一歩も引かない駆け引きは二転三転する。やがてテディの隠された過去が明らかになることで、荒唐無稽な誘拐劇は予想外の方向へと転じていく。
エマ・ストーンが髪を剃った丸坊主姿も披露し、陰謀論者に囚われたミシェル役を熱演。彼女を宇宙人だと信じてやまない誘拐犯2人組を、「憐れみの3章」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」のジェシー・プレモンスと、オーディションで抜てきされた新星エイダン・デルビスが演じる。2025年・第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。第98回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞ほか計4部門にノミネートされた。
さすがのヨルゴス・ランティモス。
リメイク作品ながらぶっ飛んだ味付け。
原作の「地球を守れ!」を未視聴なので具体的なところは何とも言えませんが、確実にヨルゴス・ランティモスならではという手の加え方が散見される。
ちなみにタイトルのブゴニアというのは
“ブゴニア(Bugonia)”は
古代ギリシャ神話由来で「牛の死体から蜂が生まれる」
という概念らしく、死からの再生や輪廻を想起させる。
箱庭的世界観の演出、とんでもない展開を描かせたらピカ一な監督ということを考えると、中々に元ネタと相性が良かったのでは。
最近は本当にあらゆるメディアで陰謀論めいたことがピックされることが多いなと思っているわけですが、リメイク元が作られたのは2003年。
当時からするとさらに突拍子も無い都市伝説的な話であろうものが、現在(2026年)になるとその様相はさらに様変わりして映る。
トランプ大統領就任後以降、世界の裏側で起きていたことが表出し、SNSの存在も相まり、真実が朧げになっていきている昨今。本当らしくふるまえばそれが真として受け取られ、逆に何も語らずにいれば真実は闇の中に眠る。
以前からそれはあったであろうし、ミクロの視点、自分たちの身の回りにある人間関係においてでも、そうした理解の祖語、穿った視点というのは多分に存在しているのは認識としてある。
とはいえここまで時代と重なりを見せるとは。
表と裏の文字通り表裏一体の世界認知の中、ふとしたきっかけで陰謀論に取りつかれた2人が行動に出るわけですが、その様が緻密なのか馬鹿なのか。
安直な行動と手際の悪さ、ある種これも人間味があるところだから面白く映るわけで、その2人を演じるジェシー・プレモンスとエイダン・デルビスのコンビが実に相性の良さを感じさせる。
ジェシー・プレモンスの存在感、演技力というのは無性に引きつけられるものがあり、なんか憎めず、絶妙な立ち位置を見事にキャラクターとして消化してしまうんですよね。
主要作品としては『ブレイキング・バッド』『FARGO/ファーゴ』『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』など。
どの作品を観ても独特な存在感。こういう癖のある役者さんって好きなんですよね。まあ監督も癖有りですが。
相棒となるエイダン・デルビスもまた良い。
オーディションで抜擢されたらしいのですが、愛嬌のある出で立ち。会話のテンポ感や佇まいが妙に役柄とフィットしている。
ヨルゴス組の筆頭であるエマ・ストーンは言わずもがなですが、あの丸坊主となった姿は衝撃的でした。
全然綺麗な役柄も出来るでしょうに、身を削ったような役柄しかやらないという姿勢は役者魂の成せるところ。
近年のディカプリオもそうですが、役柄に振り切る役者さんというのは本当に憑依しているなと感じさせられるほど生々しく、覚悟が役柄に滲み出るというか。
観ればわかる、登場人物として実存性を感じるんですよね。
そんな本作、ストーリーとしては「製薬会社の会長はエイリアンだ」と信じ込む男が、会長を拉致して拷問するというだけのこと。
なのですが、その背景と想像が斜め上をいき、二人と一人がコメディさながらにてんやわんや繰り広げるという構成になっている。
方向性はあるものの、全く予測不能。全てのシーンにおいて、観るものを裏切り、予想を越えていく。
特に終盤に向け、加速度的に転がる様は必ず驚かされるところでもあり、あっという間にとんでもない結末に至ること必至。
グロ、ゴア描写もそこそこに、ラストでの宇宙人の描写や世界観の創出は見事の一言。
地球平面説による解釈、アンドロメダ星人の描き方というのはランティモスらしい着想と表現だなと唸らされる。
特にアンドロメダ星人の描写などはそうで、ああいう世界観、宇宙人というのが存在していてもおかしくないよなと思わせる造形描写。
人型であり人ではない。衣装の巧みさ、見たことが無いような質感と造形を伴っての謎の会議所風景なども未知との遭遇そのもの。
表現で言うと月食何日前と出るカウントダウンの映像インパクトも相当でしたね。
音の表現と絵本のような映像的転換。寓話的な世界構築が得意なランティモスならではのワクワク感も存分に。
とにかく所々に散りばめられた寓話と現実の混沌さが今の現実の不確実性とリンクし想像が現実に近づく奇妙さを描く。
拷問シーンでGreen Day「Basket Case」が流れたのは印象的でしたね。
POPさと残虐さすらもごちゃ混ぜにしてしまう。
このハチャメチャさが不条理コメディ感を高めているというか。
わけのわからなさが真実に通じるかもしれないという、現代をまさに反映したかのような結末の冥利。
ヨルゴス・ランティモス作品の中でも見やすく、監督性が分かり易い作品だと思うので入口として楽しめるのではないでしょうか。
では。

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