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ヘヴン

自分が考える倫理観とは。

「ヘヴン」

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

 

かつて見たことのない世界が待ち受ける。

芸術選奨文部科学大臣新人賞・紫式部文学賞 ダブル受賞

<わたしたちは仲間です>――十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える<僕>は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。

本作で取り扱っているのは「いじめ」という大なり、小なり誰もが関わってきたことがあるはずのもの。

そのいじめられる対象者としての「僕」と「コジマ」を中心に話が進んでいくのだが、その描写と心情の描き方が実に痛々しい。

それでいて読んでいて心地いいものでは無いのに読み進めてしまう変な中毒性もある。

作中で問われてくるのが善と悪、自由と義務、論理と感情、こういった相反する意味合いの中で、それらを誰がどう考えるのか。

個人的な視点でいえばそれらの答えはすぐに出るんだろうけど、一般的な答えとなると明確な正解など存在していないし、出すのは難しい。

そこで出てくる、いじめる側の百瀬という男がとにかく曲者で、主人公である僕と会話するシーンあるのだが、そこでのやり取りが的を得過ぎていて、逆に戸惑うくらいに事実を淡々と話していく。

私自身、百瀬への共感が最も強かったのだが、それと同時に共感するが故の疑問も出てくる。

これは本作の問うている核心でに近いと思っていて、自分なりの倫理観を改めて見つめ、他者とのそれを少しでも理解する必要があるなと思わされた。

ラストで僕が言う「映るものはなにもかも美しかった。しかしそれはただの美しさだった」というフレーズがあるのだが、全てはそういう事なのかもしれない。

それは「ただの」ということが重要で、主観も客観も、善も悪も、起きていることの全てはただの「こと」なのかもしれないということだ。