『虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンコミックス)』
生命の繋がりを軽やかに描く新しい才能!
自分の指から生まれた妹への感情を綴る『星の恋人』。肩を壊した高校球児と成長を 続ける""ヒナ""との交流が胸を打つ『日下兄妹』。飛行機事故で遭難した二人の交流を 描く『ヴァイオライト』。そして、衝撃の四季大賞受賞作『虫と歌』の計4編を収 録。
独特の世界観で様々な生命の繋がりを描き、月刊『アフタヌーン』にて掲載の度 に反響拡大中の新鋭作家、待望の初単行本!! 単行本装丁は市川氏本人が手がけたこ だわりの豪華仕様になっています!【作品紹介】
深くてフシギ、珠玉の4編を収録。待望の単行本!!
・僕の妹は、僕の指から産まれた。妹への感情は兄妹愛のそれを超え、「ひとつになりたい」と願う。(『星の恋人』)
・飛行機墜落事故で生存した大輪未来と天野すみれ。助け合う二人に、意外な形で別れの時は来る。(『ヴァイオライト』)
・肩を壊した高校球児の雪輝。日々""成長""を続けるヒナとの出会いで、彼が見つけたものは――。(『日下兄妹』)
・3人の兄妹が暮らす家に夜の闖入者、それは虫であり弟であった。共同生活を始めた彼と兄妹たちの距離は縮まりーー。(『虫と歌』)
ここでは無いどこか、無機質な空気漂う世界への誘いと共に。
市川さんの作品は全てがそうだと思うのですが、こうした独特な無機質性を帯びた世界観を感じるところが魅力的なんですよね。
現在と地続きの世界であろうと、完全なファンタジー世界であろうと、冷めざめとした感を纏い、抽象的な世界に佇んだ錯覚を伴う。
線の繊細さ、塗りの淡白な使い分けが、巧妙にその世界を構築し、見たことのない不思議な空間に迷い込む。
硬質でいて繊細かつ柔和な印象を伴うのも特徴的で、それは人物たちの表情や交わされる会話の緩やかなやり取りからそう思わされるのかもしれない。
いずれにせよどの作品にも通じる、荒涼感と優しさ溢れていることは間違いない。
中でも「日下兄弟」「虫と歌」における描写の美しさ、先に書いた世界観の構築が心地良く、読んでいる局所局所で震えるほど総毛立つような展開に驚かされる描写もある。
淡々としているようで、積み重ねの中に至る純然たる輝きの芽を見る。
通じるのは日々の日常と異種共存のSF的観念。
当たり前にそれが起きる時に芽生える不可思議な感情というのは、事実を当たり前と取るのか、現実をそう取るのかという、モラルやアイデンティティを問われている気すらしてしまう。
とはいえ、それ以前に自分の中に募る”思い”というものを丹念に醸造することが何より良薬であり、信ずるべき焦点だと気付かされた時、自分の中の張り詰めた糸が弛緩した気がします。
日常とファンタジーを行き来しつつ、普遍的な感情に行き着く。その硬質で柔和な唯一無二の世界観を是非堪能してみて欲しいものです。
では。
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