圧倒的目力。
『聖なる犯罪者』
信仰深き犯罪者が起こした聖なる罪 映画『聖なる犯罪者』予告編
過去を偽り聖職者として生きる男の運命を描き、第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたポーランド発の人間ドラマ。
少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けないと知りながらも神父になることを夢見ていた。
仮釈放され田舎の製材所で働き始めた彼は、ふと立ち寄った教会で新任の司祭と勘違いされ、司祭の代わりを命じられる。
村人たちは司祭らしからぬダニエルに戸惑うが、徐々に彼を信頼するようになっていく。
数年前にこの土地で起きた凄惨な事故を知ったダニエルは、村人たちの心の傷を癒やそうと模索する。
しかしダニエルの過去を知る男の出現により、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
主演のバルトシュ・ビィエレニアが、少年院出身のダニエルと司祭トマシュという正反対の人物像を緊張感たっぷりに演じる。
最近だと映画に見慣れてきてなのか、観る前から凄く楽しみという映画は少なくなってきた気がする。そんな中での本作。
なぜだか凄く惹かれ、観に行くのが楽しみでした。観てからの印象も素晴らしく、本当に良い作品でした。
自分が好きな映画の本質というか、そういったものもわかった気がして、その意味でも良かった。
暴力的でヒリヒリするような緊迫感。画作りの緊張感もかなり好みな雰囲気と色使いで、パンフレットにも書いてあったんですが、青と緑とグレーといった冷たい色を強調した画作りに取り組んでいたとのこと。
タイトルクレジットの出し方とショットも最高のタイミングで、思わず頷いてしまったほど。
ライティングもこだわりがあったようで、明と暗が極端に描かれていた。その振り幅も作品自体のテイストに良く合っていて、自分の感覚的ともバシッと合っていた。
本当に圧倒されたのが主演のバルトシュ・ビィエレニアの目力。
存在感もそうなんですが、特に目力が強くて、空虚でダークな雰囲気かと思えば、透明で優しい目をしたりもする。その使いどころと場面が見事。
表情と状況でわかる演出と相まって、終始画面に引き込まれてしまいました。
テーマの表現と切り取り方も面白く、宗教一辺倒になりそうな主題ながら、それにもたれた日常的な問いにまでフォーカスしており、そこに見事やられました。
人は善き行いをするから善い人なのか。偽善は善なのか。赦しとは。償いとは。あらゆる人の行いに対して真摯に向き合う姿勢は本当に普遍的な問題だと思うし、自分自身の信念を問われている気すらしました。
自分自身が至った結論としては『人は多面的で弱く、弱さを知ればこそ影響力を持つ』ということ。
やはり失敗や恐れを知らない人間というのは深みに欠けるというか、何か物足りない。欠陥や欠落があってこそ、本質的な魅力や共感という感情が湧くんだと改めて思い知らされました。
年始から良い映画体験が出来ました。
余談ですが、最近ポーランド映画は良作が増えてきた気がします。ヤン・コマサ監督の最新作もネットフリックスで公開されているので気になる方は是非チェックしてみるといいかもしれません。