「癒しの音楽と映像の楽園『 オールド・ジョイ 』」
長編デビュー作「リバー・オブ・グラス」で高く評価されたケリー・ライカート監督が、ジョナサン・レイモンドの短編小説を基に撮りあげた長編第2作。
妊娠中の妻と故郷で暮らすマークのもとに、街に戻って来た旧友カートから電話が掛かってくる。久々に再会した2人は、旧交を温めるべく山奥へキャンプ旅行に出かけるが……。
「パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー」のダニエル・ロンドンがマーク、シンガーソングライターのボニー・プリンス・ビリーことウィル・オールダムがカートを演じた。
ケリー・ライカート作品を初めて観たのは「リバー・オブ・グラス」でした。
基本的に音楽も映画もインディに弱いんですが、それはそれとして、企画ものでケリー・ライカート作品を観たのがきっかけだったんですよね。
その時ポスタービジュアルで気になっていたのが本作、「オールドジョイ」。
サウンドを手掛けているのもヨ・ラ・テンゴということで、俄然興味が湧いていたんですが、ストーリーもなんか好きな感じなんですよ。ただ友人と温泉に行くっていう。これだけ聞くと、えっ、どういうストーリーって思うと思うんですけど、観てみるとホントそれだけっていう。
こういう映画の愉しみって、映像だったり、音楽だったり、雰囲気だったり、とにかく映画の余白を愉しむところだと思うんですよね。
忙しない日常へのカウンターとでも言いますか。
映像的には自然あふれる道中であったり、抜けの良い構図だったりに心癒されつつ、どこか置いてけぼりにされたような気持ちになるショットが印象的で。
音楽はヨラとの相性が抜群に良く、なんて相性が良いんだと思いつつも屋外でヨラの楽曲を聴きたいなと思わされるようなシチュエーションが続きます。
ファッションもカッコ良くないはずなのに、カッコ良く見えてくるから不思議なんですよね。
特にカート。その日暮らしのヒッピースタイルなんですけど、登場のデニムオンデニムにインナーがピンクのTシャツっていう。夜になって着るアウターもコヨーテカラーのミリタリー調ブルゾンで、これがまたいい感じなんですよ。
これも適当に着てるはずなのにスタイルと調和していて、物凄くしっくりくる。
森を歩く時のショートパンツスタイルも、ラフにカットされたピンクのパンツにマウンテンブーツといういで立ちがこれまたカッコイイ。
あとね、セリフも良いんですよ。
特に好きだったというか、印象的だったのが「悲しみは使い古した喜び」というもの。
誰にでも悲しい出来事はあるだろうし、それに悩むこともあるはず。人生山あり谷ありなわけで、だからこそ人生は儚い。
それでも、その悲しみが喜びの末路だとしたら。喜びの形を変えたものだとしたら、そう考えると悲しみの印象も変わってきませんか。
人の肉体も、人の思考も、物だってそうだし、感情だってそう。全てがずっと最高潮の状況を維持なんかできないわけで、最終的にどれも廃れていってしまうわけですよ。
だからこそそれを悲観するんじゃなくて、使い古した喜びと解釈するのは凄く素晴らしいなと。
とにかく日常に疲れた時、こういった映画に癒しと気付きを求めるのもあるじゃないでしょうか。
上映時間も73分と実にコンパクトにまとまっているので、サクッと観れておすすめです。
では。