あの頃があるから今がある。
『あの頃。』
松坂桃李主演 映画『あの頃。』予告編|2月19日(金)公開!!
マネージャーやプロデューサー、ベーシストとして「神聖かまってちゃん」などのバンドや音楽ユニットにかかかわってきた劔樹人の自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」を、松坂桃李主演で実写映画化。
大学院受験に失敗し、彼女もお金もなくどん底の生活を送る青年・劔。
松浦亜弥のミュージックビデオを見て「ハロー!プロジェクト」のアイドルに夢中になった彼は、イベントで知り合ったコズミンら個性的な仲間たちとともに、くだらなくも愛おしい青春の日々を謳歌する。
しかし時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけて離れ離れになっていく。
そんなある日、コズミンがガンに冒されていることを知った劔は、かつての仲間たちと再会を果たすが……。
「愛がなんだ」の今泉力哉監督がメガホンをとり、「南瓜とマヨネーズ」の冨永昌敬が脚本を手がけた。
劔がアイドルにハマるきっかけとなる松浦亜弥役を、「ハロー!プロジェクト」のアイドルグループ「BEYOOOOONDS」の山崎夢羽が演じる。
やはりハロプロど真ん中世代としてはアツくなりました。
今と違い、音楽といえばチャートやテレビ番組があって、誰もが聴いているようなものを消化していたあの頃。
今の方が多様化し、好みが細分化され、良い部分もあるなとは思いつつもみんなで何かを共有できていたあの頃が懐かしくもあり、その中でも異質だったのがアイドルの楽曲達。
当時ASAYANというテレビ番組があり、そこから情報を貰い、一喜一憂していたモーニング娘やハロプロ界隈。
学生時代にアイドルといえば気恥ずかしい気もしそうなものですが、当時はそれこそ、みんなその番組を観て、音楽も聴いていたし、あれだけバラエティに富んだ女の子の集団を見せてくれていた。
以前からおにゃんことか松田聖子とかそういった類のアイドルはいただろうが、そのピーク時に体験していたというのがアイドルにおいては最も大事なんだと思う。
そんな意味で本作が扱う『あの頃』という一点において、賛否両論あると思うけど、輝かしくもあり、エモーショナルでもあり、楽しかった。そういう誰にでもあるあの頃の一瞬を見事に切り取った作品だと思う。
正直、今泉監督らしいセリフの機微であったりは少なかった気がするし、映画としての強さよりも『ハロプロ』という存在のエモさやある種の青春感が引っ張っていた気もした。
何より、映画内で描かれていることはそれ自体えげつないことも多分に出てくるし、胸糞悪い展開もある。それでも笑って過ごしたあの日々、それ自体の貴重さみたいなものを鑑みると、それを表現しないことは嘘になってしまうわけで、その意味では色々と必要だったんだとも思う。
主人公である劔にフォーカスされ、音が無くなるシーンが何回かあったけど、そのシーンの含みや表現としての間、感情の揺れみたいなものを表現する演出なんかは今泉監督らしさを感じた。
本作の一番良かったところが『今を悲観しない』ということ。
あの頃も楽しかったけど、それはあの頃があったから今があるわけで、今も楽しくやってます。そういう姿勢や映像表現の冥利があったと思う。
タイトルにもある『あの頃。』という、句読点。この『。』という句読点が意味するのはあの頃が一旦終わり、でもそれは全てが終わったわけじゃないし、あの頃という一幕が終わっただけと感じた。
好きなものを好きだと言い、他者の好きを尊重する。好きで人との繋がりは一層強くなるし、好きで自分も成長する。
そんな推しが自分を推してくれるあの頃を思いながら今の推しを純粋に楽しみたいと思った。
ハロプロが好きなら尚更だけど、そうじゃなくてもあの頃を思い出させてくれるという意味で、映画というよりもむしろ思い出の箱といった雰囲気の作品じゃないかと思う。
観終わった後に、それぞれのあの頃の何かを観たり、聴いたりしたくなるのは必須なんじゃないでしょうか。