Blcrackreverse

Diggin LIFE 掘って掘って掘りまくれ!

Blcrackreverse

愛なのに

素材良し、味付け良し、仕上がり良し。

『愛なのに』

ポスター画像


www.youtube.com

「性の劇薬」「アルプススタンドのはしの方」の城定秀夫が監督、「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉が脚本を務め、瀬戸康史の主演で一方通行の恋愛が交差するさまを描いたラブコメディ。

城定と今泉が互いに脚本を提供しあってR15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の1本。

古本屋の店主・多田は、店に通う女子高生・岬から求婚されるが、多田には一花という忘れられない存在の女性がいた。

一方、結婚式の準備に追われる一花は、婚約相手の亮介とウェディングプランナーの美樹が男女の関係になっていることを知らずにいた。

多田役を瀬戸が演じるほか、一花役を「窮鼠はチーズの夢を見る」のさとうほなみ、岬役を「由宇子の天秤」の河合優実、亮介役を「よだかの片想い」の中島歩がそれぞれ演じる。

やっぱり間違いなかったですね。

今回の試みはかなり興味深いもので、今泉、城定、両監督が互いに脚本を書きクロスオーバーで監督をするというもの。

はっきり言って観る前から確実に当たりなコラボだろと思っていたんですが、観てもその予想は覆りませんでした。

ポスタービジュアルから興味が湧いたこちらの作品から観に行ったんですがこれはまさに古着屋ならぬ古本屋を舞台にしたセルフオマージュかと。

本作は脚本を今泉監督、監督を城定監督が務めた作品だったんですが、装いは今泉監督作品の『街の上で』そのもの。

ただ大きく違うのがその味付けで、城定テイストに仕上げられていることで、より過激に、より動的に物語が進んでいくんですよね。

その味付けのバランスがかなり絶妙で、今泉監督作品には無い、良いスパイスとして効いているんですよ。

冒頭の始まり方からその辺が良く出ていて、本屋で本を読んでいるシーンに始まり、突如として人を追いかけるシーンに繋がっていくシークエンス。

この静から動みたいな流れなんて今泉から城定といった感じそのものですし、それでいて登場人物の性格というか性質というか、物語上のその辺の雰囲気なんかも画的に説明できちゃっているところが素晴らしい。

その両監督に共通するのが物語の面白さ。

どちらの監督作品も構築された物語の面白さがあって、非常に自分の生活とシームレスに、なのに興味深く進んでいき、あっという間に終わってしまう。

有り触れているのに有り触れてないと言いますか、起きそうにないようで起きてほしい様な、起きているような。そんな何とも言えない物語性がメチャクチャ心地良いんですよね。

その意味で言うと滝口監督作品なんかもそうなんでしょうけど、それよりもさらに鑑賞者と距離が近いと言いますか、なんというか。

blcrackreverse.hatenablog.com

blcrackreverse.hatenablog.com

blcrackreverse.hatenablog.com

恐らく、誰にでも当てはまるところがありそうでいて、自分視点からの体験しかないものだったりを、多面的に俯瞰して見せられる、パズル的な面白さがあるから面白いのかななんて思ったり。

と同時に改めて自分は物語が好きだなとも思わされたり。

本作は端的に言えば女子高生とおじさんの恋愛、それに片思いや不倫が絡んでという愛にまつわる物語。

それだけ聞くとドロドロしたような後味悪い様なというイメージかもしれないんですが、全然そんなことは無く(まあある意味ではそんなこともあるんですが)、ちょっと笑えるテイストでコメディタッチですらあるストーリー性がしっくりくる。

カメラワークなんかも城定監督らしい良さが出ていて、余白の奥行感と言いますか、余白の遠近感というか、余白で語る構図は多分に出てきますし、手持ちらしい動きあるブレたショットも効果的に使われているかと。

他人の日常を覗き見しているようなショットも多々あって、そのちょっと危うげな感じも作品のストーリー性と相まってスリリングで興味深いところなのかも。

怖いもの見たさと言うか、人ってゴシップとかちょっといけないこととかって好きじゃないですか。

作品テーマ的にもその辺は顕著に出ているし、岬の両親が乗り込んできた時の「気持ちが悪いんです」の連発が作品自体の内包するそれを見事に表現している気もする。

とはいえそれは何も知らないはたから見ればの感想なわけで、当事者目線でいけばまた違った景色が見えてくる。

その、誰が普通で誰が異常なのかといった線引きが如何に無意味なことなのかを知らせてくれるという意味でも非常に面白い視点だと思うしそれが全編に渡って緻密に構築され、どんどん登場人物に興味が湧いてくる。

キャラクターで言うとやっぱり全員ハマっているわけなんだけど、中でも瀬戸康史演じる多田と河合優実演じる岬が好きだった。

この二人のポスタービジュアルに惹かれて観たところもあるわけだし、その関係性も含めてとにかく良い。

瀬戸康史さんはこの作品まで特に好きな俳優というわけではなかったんですが、この作品のイメチェンした雰囲気、佇まい、かなりツボです。こういう雰囲気あるカルチャー傾倒な人って好きなんですよね。自分の好きなものが隠しきれてないというか、染み出ちゃってる感じ。

そういう雰囲気に惚れたんじゃないのかと思ってしまうような岬の存在感も相当なもので、他作でも最近よく見かけるようになった河合優実さん、非常に今後も楽しみな女優さんだなと思います。

彼女はホント出る作品で印象がガラッと変わりますし、本作では女子高生にしか見えない素晴らしさ。それでいて少しミステリアスな、背伸びした雰囲気なんかは良く役柄にあっており、名演技でした。

他の出演者も皆素晴らしく、作品性との相性が良い配役だったなと。

いつも観ている今泉作品のテイストは好きなんだけど、もう少しスパイシーな刺激も欲しいかなと思うような人はドンぴしゃな作品なんじゃないでしょうか。

今泉監督作、城定脚本作品『猫は逃げた』もチェックせねばと思わされるほど良いコラボでした。

では。