『インターステラー』
「ダークナイト」「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督によるオリジナルSF大作。地球環境の変化によって人類の滅亡が迫る近未来を舞台に、家族や人類の未来を守るため、未知の宇宙へと旅立っていく男の姿を描く。
近未来、地球規模の異常気象と飢饉によって人類滅亡の危機が迫っていた。元宇宙飛行士のエンジニアで現在はトウモロコシ農場を営んでいるクーパーは、NASAの要請に応じて人類の未来を懸けた前代未聞のミッション「ラザロ計画」に参加することになる。計画の内容は、土星付近に突然発生したワームホールを通り抜け、新しい惑星へと人類を移住させるというものだった。家族と人類の未来を守るため、クーパーは少数精鋭のクルーとともに前人未到の地へと旅立つが……。
主演は「ダラス・バイヤーズクラブ」でアカデミー主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒー。共演にアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ケインほか。「ダークナイト」や「インセプション」同様に、ノーラン監督の実弟ジョナサン・ノーランが脚本に参加。撮影は「裏切りのサーカス」「her 世界でひとつの彼女」のホイテ・バン・ホイテマ。第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、視覚効果賞を受賞。
2020年9月には、クリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」公開にあわせたノーラン監督作のリバイバル上映企画「ノーラン夏祭り」の第4弾としてIMAX版で上映。2024年11月にも公開10周年を記念してIMAXでリバイバル上映。
IMAXで観ることで至高の体験へ。
映画体験は斯くあるべきとはこのことか。想像以上の映像体験にいまだ興奮が冷めやらず。
様々な映画がある中、ノーランゆえの部分も多分にあるなと感じつつ、映画を映画としてどこまで硬度を高めるのか。その問いに対する明確な回答がここにありました。
迫力や壮大さ、そういった映像的ダイナミズムこそが映画の根底には存在していて、だからこそ大きなスクリーン、良質な音響、静寂な環境で観ることが必要だとは思うわけですが、それらがもれなく入っている。
それ以外にも人それぞれ、美術であったり、役者の演技、物語性、様々な要素が観るための動機としてあると思うわけですが、それらも全て入っている。
作品自体が169分とおよそ3時間の長丁場ながら、食い入るように見入ることが出来たのはこうした細やかなこだわりがあるからでしょう。
集中力が、とか、内容が小難しくて、とかですら無く、ただただ見入る。
今にして見ると公開されたのは10年も前なわけで、まだ20代だった私にとっての見え方や視点、現在とは異なる世界や映画へのズレを感じさせられる。
これがまた感慨深くもあり、時間による変化というものもありでまさに作中で描かれる”時間”というものをダイレクトに感じてしまう。
本作の引きは冒頭から怒涛のように押し寄せてくるわけですが、あの辺も音響、迫力、あんなに凄かったでしたっけ。というくらいにIMAXで観ると凄まじい映像力。
一貫してダークで冷たいトーンを保った画作りと、SFという相性の良さ、そしてノーランならではのこだわりっぷりも随所に見られる作り込み。
余談ですが、冒頭から登場するコーン畑、あれは映画の撮影用にノーランが育てたようで、実存にこだわる彼らしいなと思いつつも、あそこまでのものを作り込むというのは正気の沙汰では無いですよ。
映画におけるジャンルとして、SFというのは好きなジャンルに入るわけですが、ノーランはSFとの相性がめっぽう良い。
常に”時間”というものを下敷きにした作品が多い中、本作では時間と密接な関係性にある”物理学”とりわけ”重力”に重きが置かれている。
タイムマシーンなどというものが想像できるようになってから、当たり前のように時間の移動を鑑みるようにもなってきたわけですが、それらをここまで硬質に煮詰め、学術上の硬度も保つというのがノーラン流。
実際にこの作品からいくつかの論文が出ていたりもするというんだから、それは映画的な説得力も増してくるよね。というお話。
この辺含め、詳細がメイキングブックにも載っているようで、これは是非読んでみたい。
ただ、そうした頭でっかちなところに終始せず、あくまでも映画、映像体験としての魅力を突き詰めるところにこそノーランの真骨頂があるわけで、その融合性が見事としか言いようが無い。
物語自体が円環構造になっている体ですが、その円環も単純に見える円環以上の意味合いを持ち、見えている事柄以上の問いを向けられる。
先に書いた”時間”や”重力”というものと並行し、”一部”と”全体”という対比構造も見え隠れする。
「木を見て森を見ず」などと言う通りで目先のことだけに目を取られてしまうのが我々人間の性。
日常などに目を向けてもそれこそ自分の眼の前のこと、自分自身の感情、自分本意な考えによって支配されているのが現状なわけです。
これも仕方無しで、そこに自我があるからどんなに気を使っても絶対に自分という枠組みを無視して何かを考えることなど出来ない。
でも、そんなことを言いながら、他人のためとか、社会のためとか、環境のためとか、何かとかこつけて全体を意識しているような思いや発言をしてしまいますよね。
これこそが無意識下の意識であって、本作でもそうした自分周りのためなのか、全体のためなのかという問題に幾度となく直面するわけです。
愛というものがキーワードになるところもあり、それは次元という概念を超越できるかもしれない説明不可能な現象の力。
論理や整合性、効率や客観性といった一見理にかなったような事柄成される結果というが最善になるわけでは無いということ。
アン・ハサウェイ演じるブランドも作中でそのミスに気付くわけですし、他の人物たちにしてもその矛盾を体現している。
結局人が人である以上、人の感覚を抜きで語ることは事実上不可能というわけですよ。
なんならノーラン自身も論理的に詰める映画作りをしつつ、結局非論理的なところへ帰着するというのも映画の枠組みからして興味深い。
とまあそういった役者を通じての感覚的な示唆にも富んでおりますし、その部分でいうとマシュー・マコノヒー演じるクーパー、マッケンジー・フォイ演じるマーフの関係性には痺れました。
親子愛の紛れ無き結びつき、あの関係性は演技力無くして絶対に不可能。
その後の関係性も同様に素晴らしく、ジェシカ・チャスティンのマーフも言葉によるやり取り抜きにして、表情と余白の充足で物語る様はまことの深さを感じた。
絆の強さゆえの揺らぎも尋常じゃなく、ミラーの惑星に行ったあとの20数年の時が経過したクーパーの表情なんてもう涙無しには見れないですよ。
あれは名シーン過ぎる。
それ以外の演者も素晴らしいラインナップで、今見ると尚更豪華過ぎだろと思ってしまうところにも時間の経過を感じさせられます。
そして映像。
ホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影しているわけですが、場面のスケール感がとんでもないですよね。
何度も、圧倒される映像に息を呑みましたが、とりわけミラーのいた惑星での引き波の津波が半端じゃない。
サーフィンをやっていることで波の怖さは十分認識していますが、あんな桁違いのもの、それをあのような形で見せるというのが何よりの驚きで、静止画では伝わらない、あの地平の先から迫る巨大なうねり。
うねりが巨大過ぎて理解出来ないのもわかりますし、眼下に迫ってきた時のIMAXスクリーンの縦を存分に使用した絶望感。
あれは言葉いらないですよ。
あんな絶望感を映像で見せられたら、それは。
そうした映像的なダイナミズムも今にして思えばホイテマの功績も大きく、画作りの力をIMAXでこそ感じさせられます。
物理的な硬度を高めた作品ゆえの説得力も反映しており、考証に基づく画作りは圧巻としか言いようがない。
特に物理学者キップ・ソーンが関わっていることでの影響は計り知れず、本作から論文が書かれているというのも納得の説得力。
私自身、特段物理学に詳しいわけではないものの、映像でここまでのものを見せられると学術の偉大さをまざまざと感じさせられる。
ブラックホールのシーンなどは特に印象的でした。これがのちに本当のブラックホールのビジュアルとして出てくるとは。
ちなみにガルガンチュアの映像はCGだけで容量は約800TB。1年以上かけて製作したらしいですから、それだけで驚愕の情報と熱量ですよ。
サウンドに関してもハンス・ジマー曰く「インターステラーはベスト作品」と挙げたものの、直後に「まだお気に入りの作品は作っていない、とも答えることもできる」とも言っているわけですが、総じて相性の良さは抜群。
低音の鳴りが特に素晴らしく、そこからの無音への緩急、これがまた映像に積層されていくんですよ。
とまあサブスクやらブルーレイやらで観れるわけですが、この体験はIMAXでしてこそ。
これをもってそれらの媒体で観るのと、これを知らずに観るのとでは刻まれる印象が各段に違ってくるはず。
今のうちに絶対に映画館で体感すべきではないでしょうか。
余談ですがBDには特典も充実しているようなので、その辺はBDで確認することで楽しみも倍増することでしょう。
それでは。
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