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詩が日常を殴り返す――『ポエトリーエンジェル』に見る妄想と葛藤のリアルな成長ドラマ

『ポエトリーエンジェル』

ポスター画像

リングの上で自作の詩を朗読し、どちらの言葉が聞き手の心に届くかを判定して勝敗を決める「詩のボクシング」を通し、成長していく人々の姿を描いた青春エンタテインメント。「合葬」「ディストラクション・ベイビーズ」の若手個性派俳優・岡山天音と、「non-no」専属モデルで映画「暗殺教室」などにも出演した武田玲奈が主演を務める。

高校卒業後、実家の梅農家で働く玉置勤には妄想癖があり、自分の妄想を発揮できる場所を探し求めていた。ある時、声と言葉のスポーツである「詩のボクシング」の存在を知り、興味を抱いた玉置は、「詩のボクシング教室」に通うようになる。教室にはラッパーや暗そうな女性、年金暮らしの老人などクセのある面々が集まっていたが、そこへ、ある悩みを抱えたひとりの女子高生が加わり……。

インディーズ映画の登竜門として知られる田辺・弁慶映画祭の第10回開催を記念して製作された長編作品。監督・脚本は、「チキンズダイナマイト」「独裁者、古賀。」など個性的な作品を発表し続けている俊英・飯塚俊光。

思ってたのと違う感じもありつつ、ポエトリーの力をうかがい知る。

NHKドラマ『ひらやすみ』を見ており、岡山天音見たさから本作を鑑賞。

舞台は和歌山県田辺市。

風光明媚な景色をバックに、そこでの人間模様、ポエトリーを中心としたやり取りが行われる。

詩のボクシングと銘打った、ポエトリーバトル。ただ詩的な日常をというよりは、詩のボクシングという異種格闘技を通して、詩にアプローチしていく過程が面白い。

詩が日常になり、日常が詩になり。

誰しもが心に葛藤を抱えていて、それは分かり易いものから分かりにくいものまで玉石混合。

葛藤を抱えた人物が一カ所に集まり、その個性的な面々の並びからして既に笑えてくる。

まず配役のバランスが最高。

東京03の角田を筆頭に、キャラ設定が個性的過ぎ。その並びと関係性だけでも観れてしまう。

日常系なのにコメディ感強め。それでいてシリアスな細部と心の葛藤が綯交ぜになる。

嘲笑するような笑いは褒められたものでは無いが、本作に出てくる面々にはそうした衒いが一切見られないキャラクターとして描かれており、だからこそ愛らしく絶妙な温度感を伴ってほのぼの見られる。

全体を通してそうしたほっこり感に満ちており、優しさのコラージュが随所に成される。95分という上映時間も相まって、サクッと観られるというのも良い。

ただ、一辺倒に緩い物語かと言われればそうでもなく、抱える各々の悩みや葛藤は丁度良く重い。

劇伴の美しさも秀逸で、流れるタイミング、ピアノの旋律、感情を刺激する絶妙な箇所での挿入が胸を打つ。

”ここぞ”というところで入ってくる心地良さがあり、感情と映像がシンクロする感覚が気持ち良い。

ラストで流れる楽曲も非常に相性が良くて、映像のゴーストと楽曲のタッピングによる煌めきが重なり合う。

ミセスの楽曲と知らずにエンドロールで知ったのですが、この曲は本当に壮麗で美しい。

主題歌の背景: 主題歌はMrs. GREEN APPLEの「soFt-dRink」ですが、この曲はボーカルの大森元貴さんが17歳の頃に描いた楽曲で、主人公たちの葛藤にリンクするピュアさが選ばれた理由の一つです。


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Mrs.GREEN APPLE(通常盤)

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詩のスタイルというのもそれぞれで、歩んできた人生から出る言葉だからこそ、その人となりや文脈が反映され、リリックとなる。

極めて歌詞やラップに似通ったところもあり、内面の吐露という意味においてはメロディに寄らない詩の方がダイレクト性があるようにも思えてくる。

何より、岡山天音演じる勤の詩が衝撃的かつ笑える。その詩を読むシーンが何度も出てくるのですが、何度見ても普通に笑える。

妄想が現実を凌駕してほしいとするようなぶっ飛び具合。

芝刈り機という勤にとって日常的に触れるものと願望としての女性像。その両者がぶつかり合い、葛藤の様相を示すという構図をあそこまで奇抜で、笑いの伴うものに変えてしまうという。

これも一種の才能ですよね。

勤にしか出来ない表現。妄想と作中に起きる事件をマッシュアップし、その先を構築するというのは正に人生そのものであり、それが出来た時に実人生でも進むべき道を見出すことができた。

湧き上がる思いが真実であり、本気で思うからこそ表出してしまう、溢れ出してしまうというところが良く伝わってくる部分でもあり、故に観る側もシンプルに受け止められる。

武田玲奈演じる杏も同様で、勤との関係性の交わりも合わせてコミカルかつ、時に辛辣に。

彼女が抱える吃音というも多くの人が持っているものでは無いにせよ、クラスメイトとの理解や、勤たちとの交流を通して本当の気持ちを吐露していく。

あくまでも詩はパフォーマンスでなく、心情の核心の吐露なのだと。

葛藤を下敷きにした軽妙な掛け合いとそれぞれが思い描く感情の発露。

シンプルにこういう場があり、こういう関係を受け入れられる人間に、そしてコミュニティに属して見たいものです。

では。