思ってた以上にタフでヘビー。でもそういう事なんだろうな人生って。
『佐々木、イン、マイマイン』
初監督作品「ヴァニタス」がPFFアワード2016観客賞を受賞し、人気バンド「King Gnu」や平井堅のMVなどを手がける内山拓也監督の青春映画。
俳優になるために上京したものの鳴かず飛ばずで、同棲中のユキとの生活もうまくいかない日々を送って悠二は、高校の同級生の多田と再会をする。悠二は多田との再会で、在学当時にヒーロー的存在だった佐々木との日々を思い起こす。悠二はある舞台出演のため稽古に参加するが、稽古が進むにつれ、舞台の内容が過去と現在にリンクし、悠二の日常が加速していく。そんな矢先、悠二の電話に佐々木から数年ぶりの電話がかかってくる。
主人公・悠二役を「his」の藤原季節が演じるほか、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、「King Gnu」の井口理、鈴木卓爾、村上虹郎らが脇を固める。
観る前のイメージと大きく変わる映画ってあると思うんですけど、この作品はまさにそれ。
観る前は日常系というか、どちらかというとゆっくりとした感じで進む物語を想像していた。それが序盤からちょっと様子がおかしいなと。
別におかしな何かが起きるとか、演出的にどうとかいう話では無いんですが、とにかく不穏な空気感を常に纏っているような。
それが本作のタイトルにもなっている佐々木自身が纏っているものだと気付いてくるわけですが、知れば知るほど、序盤とは異なる思いも湧いてくるというか。
青春時代と現代を行き来することで繋がれていくような構成で、その辺のリアリティも良いんですよね。
青春時代って、やっぱり未来に明るいというか、今に幻滅したり、反発したりといった気持ちはあっても、未来に対して悲観的に捉えてる人って意外に少ないと思うんですよ。
その意味でいうと本作に出てくる彼らもまさにそうで、特に佐々木に関してはしっかりと生きようとしている。
この佐々木が実は不遇は家庭環境で育っていて、というかとこが段々とわかってくるんですが、それなのにそんな様子を学校や友達と過ごしている時には一切感じさせないキャラクター。それどころかみんなを楽しませようだとか、空気を和ませるような振舞いをしている。
でも実はそんな家庭環境からくる負の感情にも支配されていっていて、それがちょっとづつ漏れてくるといったような感じなんですよね。この辺の漏れ方も単にグレるとか、犯罪をとか、そういったところじゃないところが良い塩梅で。
とにかくそうした不遇な中でこそ得られることを手に取るように体感させてくれる良さがあるんですよね。この作品には。
言ってしまえば、不遇かどうかということすら本人が思う所であって、他人が憐れむのって違うと思うんですよ。それはエゴというか、自己満に近いもので、相手を下に見て、自分の立ち位置がそれよりは高いということで満足したいだけ。
そんな構造が本作にはあるわけですが、とにかく刺さる場面、フックのあるシーンが多かった気がします。
個人的に良かったと思うのが佐々木がユウジと部屋で二人いるシーンでの佐々木からの一言「お前はこのままいけ。絶対に大丈夫だから」という場面。
これもお互いの関係性の中で、俺はこういう境遇だから未来も無いかもしれない、でもお前はそんなことないんだから、好きなように生きろと言っているようで。その底から湧きあがってくるような言葉だからこそグッとくる。
あと、佐々木のカラオケで浮かれまくってのナンパシーンも良かった。
あんな分かり易く、ストレートに行ける潔さ。その前の友達への相談も実に佐々木らしいし、カラオケを出てからのやり取りも実に佐々木っぽい。
佐々木を知らないのに、わかるわかる、と思わせるキャラとして描かれている、この人物表現は凄いですよ。
大人になってから久々の再開シーン、パチンコ店外での話も興味深かった。佐々木がユウジに言った「朝にどうしようもないおやじ達とパチンコ屋に並んでいる時にふと、俺も年を取ったらこんなおやじになるのかと思うと死にたくなる」そう話していた気持ちは一番痺れました。
自分自身もそう思う事があって、これって人生に向き合えば向き合うほど感じることなんだろうなと。
後先を見なければそこまで考える必要が無いことでも、考えずにはいられない、少しずつ何かが削られ、明らかに人生と言う名のスペックが劣化していく感覚。歳を取れば身体は衰え、思考も衰退し、好奇心も薄れ、視野も狭くなっていく。
それを映画内でのエピソードで表現してみせるというのはホントに凄まじい。
そんな佐々木に纏わるエピソードを中心にして登場人物たちのあれこれを語っていく作品なんですが、要するに人生は簡単じゃないわけですよ。
でも向き合わなければ道は開けてこない。そう、勝手にどうこうはならないんですよ。
ここ結構重要なポイントで、佐々木自身も諦めたように見えて全然そんなことなくて、むしろ一番足掻こうとしていた。
出来ないと思っていた彼女も出来たし、下手だと馬鹿にされたバッティングでもホームラン王を取れた、バスケが出来ず所詮美術部と言われていたが大人になってもなお、絵を描き続けていた。そしてあのラストですよ、死んでもいいと思っていたけど・・・。
結局そういった道を自分の行動で切り開いてきた。それと並行して他の登場人物達もそれぞれの道を歩んでいる。
境遇は一つのステータスであるのは間違いないけど、それが全てじゃないし、そこから感じ、考え、行動するフェイズは自分自身に委ねられているんだと思えてくるんですよ。
ユウジが彼女とのケジメを付けに行った時、そういったカタルシスが見事に昇華して佐々木がインマイマインした。
青春時代の甘酸っぱさと、そこから連綿と続く人生への姿勢みたいなものを佐々木というフィルターを通して見せてもらった気がします。
予想以上に重い話ではありましたが、それもまた人生。
では。