「『青春の光と影』―『ストロボライト』が浮かび上がらせる、時間の美しさに魅了される」
君が好きになったのは、――本当に<私>?
気鋭・青山景、待望の最新作
だから書かなくてはならない。
知るために。
夜行列車で'過去'を書き続ける小説家・浜崎正。大学時代に出会った<町田ミカ>は、映画のヒロイン・桐島すみれにそっくりで……。現実なのか、夢なのか。『CONTINUE』での連載を経て、遂に待望の単行本化。交錯する過去と現在・夜行列車が向かうのは、どんな未来か。
とにかく表紙のインパクト大な描写に惹かれたわけですが、もうお亡くなりになられていたんですね。
本作を読むまで知らなかったんですが、非常に興味深い描写をする方だったので、新作が読めず残念でなりません。
話は逸れましたが、幻想を抱くことって誰しもあると思うんですよ。本作はそんな夢と現実の狭間のような物語。
とはいえ、内容的には青春時代の甘酸っぱいようなお話ですし、全然こ難しさとかも無いんですよ。
ただし、読んでいくうちに段々と迷宮に迷い込んでいるような、そんな不思議な感覚に陥っていきます。
この構成が面白くて、今まであまり出会ってこなかった類の展開だなと。
過去、現在、未来という時間軸の切り取り方、描き方、あくまでも物語に比重を置きつつ、要所要所に時間というものを散りばめていく。
一般の線は繋がっていくのに、虫眼鏡で見ると意外に真っ直ぐでは無いぞと思わされるところに面白さがあるのかもしれないですね。
コマ割りの仕方も独特で、割り方なのか、構造上なのかわからないんですが、非常に映画的な趣を感じるんですよね。全編にわたって。
描写力というのもそれには影響していると思うんですが、繊細なタッチと、振り幅のある表現力。前者に関してはもう、見れば明らかなところですが、これ見よがしに描き込まれているというより、部分部分でハッとさせられる類のもの。これが美しくも儚いんですよ。
後者の部分としては、陽的な表現が続く中での淡い、瑞々しさに浸っていると、徐々にジンワリと染みるよう、予感が迫ってくる陰の雰囲気が漂ってくる。
この使い分け、表現の仕方が見事なんですよ。
あからさまじゃ無いというところが何よりのポイントですよね。感じさせるという程度の加減が。
物語の部分も、案外盲点なんですよ。
展開的には映画やら小説やらを読んでればある程度見当はつきそうなものではあるわけです。
なんですが、この考えはある意味で斬新だなと、そこの部分も驚かされましたね。
とにかく時間という概念を軸にしつつ、物語は至ってピュアな青春恋愛模様という、奇妙な世界観を堪能できる一作でした。
では。