家族とは何か。
『最初の晩餐』
父を亡くした家族が通夜に出てきたある料理をきっかけに父と家族の時間を取り戻す姿を、染谷将太主演で描いたドラマ。
父の日登志が亡くなり、カメラマンの東麟太郎は葬儀のために故郷に帰ってきた。通夜の準備を進める中、母のアキコが通夜ぶるまいの弁当を勝手にキャンセルし、自分で料理を作ると言い出す。母が運んできた料理は目玉焼きだった。母が作る数々の手料理を食べていく中で、家族のさまざまな思い出が去来していく。
染谷が主人公の麟太郎役を演じるほか、姉の美也子役を戸田恵梨香、兄のシュン役を窪塚洋介、両親役を斉藤由貴、永瀬正敏が務めるなど、実力派キャストが集った。
監督、脚本は「サザンオールスターズ」のドキュメンタリー映画をはじめ、CMやミュージックビデオなどを手がけ、本作が長編初監督作品となる常盤司郎。
思っていた以上に広く、深く、感動した。
人の暮らしというか人生というかそういった生き死にみたいなものを『食』という切り口で丁寧ね紡がれていく感覚。
最初、なにが始まったんだろうというくらいよくわからない展開なんですが、これも後々効いてくる。
こういうほのぼのしたようなストーリーって一見すると話が中弛みしたり、間延びしたりしがちなんですが、これは違いました。
まあほのぼのしたようなという形容も合っているようで合っていないところなんですが、とにかくスパイスの効き具合が丁度良く、話が依れない。
ここまで緻密に計算されたような構成と、映像的美しさ、もしかしてと思って調べてみたものの、原作はありませんでした。
監督自身が映画からノベライズしたようですが、原作無しでこのクオリティというのは驚かされます。それくらい最初から最後までしっかりと計算されたような作品でした。
正直、今まで『食』というものについて漠然とした印象しか無かったんですが、人と人を繋いだり、記憶と結びつく。
日々の営みとして、生活と密接にかかわっているものの中ではトップクラスなんじゃないかと、今更ながら思うほど日々の生活と密接に関わっている。
毎日食べるし、誰かと食べる。
まあ一人で食べることも多いだろうし、ライフスタイルが変わっているのも事実だと思う。ですが、その誰かと食べることの重要さだったり、かけがえの無さ、気付き、時間を共有することでしか得られない特別な時間なんだなと思えただけでも、この作品を観た甲斐があったというもの。
小さい頃に言われた「食べた物が人を作る」ということ。その時は漠然とその言葉だけを認識し、単に体を強くする為には食べないといけないという意味だと思っていた。
でも考えてみると食べた物以上に、誰と、どう食べるのかという行為そのものが重要だったんじゃないかと。それこそ同じ食べ物でも状況次第で意味合いも印象も変わってくる。そんな表現の媒介として家族というモチーフを使っているのも分かり易く良く機能していた。
映像的なギミックも面白くて、何かを予感させるような間だったり、余白だったりが随所に散りばめられ、独特なテンポ感で進んでいく。
それによりストーリーにどんどん引き込まれていく。
グイグイ引き込まれていくわけではないものの、なぜか掴んだら離さないような構造があって、2時間越えの作品ながら全く飽きずに鑑賞しました。
出ている役者陣も実に豪華で、それぞれの演技力が役柄と良くハマっている点も良かった。戸田恵梨香、染谷将太、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏といった家族の姿が特に素晴らしく、それまで流れてきた時間や葛藤、あるはずの時間を感じ取らせるような振る舞いや言動がいちいち最高で、関係性が手に取るように分かる演技、あれをそれぞれの個性を残しつつやれるというのが驚きでした。
幼少期のキャストや演技もこれまた良くて、とにかく一貫した繋がりが感じ取れるんですよね。
こういったところがこの物語の肝かなとも思っていて、食を通じた数珠つなぎの人生観。最後にある伏線回収含め完璧でした。
そしてもう一つある見所が何度も出てくる食事。
食べているシーンというよりは食事そのものが何回も出てくる。
これがまたメチャクチャ美味しそうに見えるんですよ。料理自体はいたって普通のメニューだし、完成形もいたって普通のもの。
それがこんなに美味しく見えるのはカットの撮り方と、それにまつわるエピソードや人間関係、なんなら背景にある色々な余白すらも含めての画力なんじゃないでしょうか。
タイトルのネーミングも中々ツボで、最初の晩餐という一風変わったもの。最後の晩餐ならぬ最初の晩餐。どう解釈するのか含めての良いタイトルです。
あと、終盤であった窪塚演じるシュンと染谷演じる麟太郎のやり取り。あの時の窪塚がカッコいいんですよね。
どんなセリフかというと、麟太郎がシュンに「今はなにやってるの」という問いに対して。「登ってる。向こうの山岳隊に所属してる。来年はエベレストだ」というようなシーン。
言い方と間を含め、窪塚然とした佇まいはあるのに、以前ほどの刺々しさは無い。それがまた役者としての成長を感じるものの、凄みも滲み出ちゃっているからやられちゃいます
やっぱこういうトップというか威厳のある地位に元来着くべき器量をもった人っているんだなと改めて。
IWGP、ピンポン、GO。そういった奇抜でカリスマ感のある役が本当に似合う。最近はそういった役柄が減ってきている感もあったんですが、本作では久々にその良さも出ていて、やっぱりこういう役の方が似合うなと思ったりしました。
内容的にも映像的にも重いのに柔らかい。正直なところ、ここまでグッとくるとは思いませんでした。
ちなみにこれが常盤監督初長編作品とのことです。嫌でも次作を期待してしまいますね。
では。
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