『Michael マイケル』

圧倒的な歌唱力と革新的なダンスパフォーマンスで時代や国境を越えて愛され続ける「キング・オブ・ポップ」ことマイケル・ジャクソンの人生を描いた伝記映画。「トレーニング デイ」「イコライザー」シリーズのアントワン・フークア監督がメガホンをとり、音楽の枠を超えて世界に多大な影響を与えたマイケルの物語を、数々の名曲と共に描き出す。
野心家の父ジョセフのもとで厳しいレッスンを受け、兄弟グループ「ジャクソン5」のメンバーとして幼くして成功を収めたマイケル・ジャクソン。やがて名プロデューサーのクインシー・ジョーンズと出会った彼は、ソロアーティストとして数々の歴史的名曲を生み出し、瞬く間に時代の寵児となっていく。しかしその栄光の裏には、早熟の天才ゆえの孤独感や、強権的な父の呪縛、家族への愛と自分の中にあふれるビジョンとの間で葛藤するひとりの人間の姿があった。
主演にはマイケルの実の甥であるジャファー・ジャクソンを抜てきし、幼少期のマイケルをジュリアーノ・クルー・バルディ、父ジョセフをコールマン・ドミンゴ、母キャサリンをニア・ロング、音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズをケンドリック・サンプソン、長年の弁護士ジョン・ブランカをマイルズ・テラーが演じた。「グラディエーター」のジョン・ローガンが脚本を手がけ、製作には「ボヘミアン・ラプソディ」のグレアム・キングが名を連ねる。
本当に唯一無二だと実感するのはなぜだろう。
音が流れた瞬間、歌声を聴いた瞬間、真っ先に頭に浮かぶのは”音楽”という二文字であって、本来の音を愉しむというエンターテインメントの本質が宿っているような化身たる存在感。
私自身が最初にマイケルを認識したのはディズニーランドでの体験。
1986年から東京ディズニーランドのトゥモローランド(マジックランプシアターの前身となる「マジック・アイ・シアター」)で公開されていた、3DSFミュージカルアトラクション『キャプテンEO(Captain EO)』の存在は大きかったですね。
産まれ年に誕生したアトラクション。
破格のタッグで作られたものだったと後で知り、あの中での映像と楽曲、それを体現するマイケルの存在には非常に打たれた覚えが。
【キャプテンEO(1986年〜1996年 / 2010年〜2014年)】
マイケル・ジャクソン主演の3Dシアター型アトラクション。
製作総指揮にジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)、監督にフランシス・フォード・コッポラ(『ゴッドファーザー』)という、当時の映画界の頂点を極めた天才たちがマイケルのために集結。わずか17分の映像に、当時の長編映画一本分を遥かに凌ぐ巨額の製作費が投じられた。
幼少期のインパクトというのはかなり深くに刻まれているということを痛感しますし、今でもあのイメージは残像として残っているんですよね。
映画の話に戻りまして、物語の構成としては幼少期から、あるステージに向かって進行していくのですが、この辺は昨今の伝記映画と似通った構成でしたね。
ライブでの高ぶりなどを鑑みると個人的には『ボヘミアンラプソディー』が最も近いのではないかと。
監督はアントワン・フークア。
『トレーニング・デイ』は好きで、中々アクションと言うか見せ場を作るのも上手く、それでいて心情を描くのもお手の物。
アメリカの映画監督。代表作にデンゼル・ワシントンにアカデミー主演男優賞をもたらした『トレーニング デイ』や、『イコライザー』シリーズなどがある。
彼の真骨頂は、「人間の内面にある光と、生々しいまでの暗部(バイオレンスや孤独)」を骨太な映像美で描くこと。元々はミュージックビデオの演出家としてキャリアをスタートさせており、映像と音楽を同期させる感覚にも極めて鋭い。
徹底的な緊張感の中で人間の心情を揺さぶるあの骨太な映像美の源流が、この1編にはっきりと刻まれている。マイケルの孤独を切り取った監督の、外連味とリアリズムのバランスを再確認したくなる。
そんな監督が描くマイケル像。
誰目線で描くかによって見え方が変わるところでしょうし、個人的にも少々外連味と聖人過ぎるマイケルというのは若干気になったしまったところではあるのですが、それを置いても十二分に楽しめるような娯楽作。
マイケルが好きでなくとも、絶対に耳にしたことはあるであろう楽曲の数々。PVを観ているような、ライブを体験しているかのような臨場感。
このサウンドの冥利は劇場で無ければ本粋で楽しむのは難しいのではないでしょうか。
序盤のジャクソン5時代に始まり、そこからソロに至るまで。
あんな幼少期から特別な才能を持ち、憧れているのは童話であり、心を許せるのは動物が主。
ある意味で童話の主人公たる彼の振る舞い自体がファンタジーなところでもあって、心の優しさというのは確かにあったというのが伺える。
細かい史実などは西寺郷太さんのYoutubeがメチャクチャ丁寧に解説してくれているので是非それを見てほしいし、出しているマイケル関連の本も
合わせて読むと理解が深まると思う。
スクリーンの中で駆け抜けた彼の濃厚な足跡を、緻密なクロニクルとして整理された言葉でもう一度なぞりたくなる。神格化されたポップスターの、一人の人間としての輪郭がここにある。
映画が全編を通じて鳴らし続けた極上のメロディが、いかにして想起され、世界を揺るがしたのか。その天才の作火点と楽曲の構造を、まるで丁寧なガイドのように紐解いてくれる。
幼少期から天性の歌声は目を見張るところで、その声の唯一無二性は誰が効いても一目瞭然。
そこに動きやステップ、抜群のリズム感も加わることで、誰にも出し得ないハーモニーが宿る。
楽曲センスは言わずもがな、各楽器の音域を正確に把握したメロディの想起。そこに自らのハイトーンボイスも加わって、極上のサウンドと化す。
こんなダイナミックで、美しく、感情を高ぶらせる音を奏でられるというのは数多のアーティストを置いて、思い浮かべることが出来ない。
ステージの圧巻さは特に突出した部分でもあり、ライブシーンでの観客との一体感は半端じゃない。
ほぼ全編で楽曲が流れているのではと思うほどのサウンドメイクで、映像とシンクロした楽曲の構成が飽きを感じさせず、終始テンション高く高揚させる。
終始ブチ上がる仕掛けが成され、マイケルの心理的な側面と、スターとしての外面が絡み合う。
このバランスも見事で、127分と短くない作品ながら全く撚れない。
その立役者としてマイケルを演じたジャファー・ジャクソンの存在は間違いないところ。
1996年生まれ、マイケル・ジャクソンの実兄ジャーメイン・ジャクソンの次男(マイケルの甥)。
自身もシンガーソングライターとして活動しており、2019年にシングル『Got Me Singing』でデビュー。シルキーで艶のある歌声と、ジャクソン・ファミリーのDNAを色濃く受け継ぐしなやかなダンススキルを持つ。映画『マイケル』が本格的な俳優デビュー作となる。
本当に良くやったなと。
マイケルを演じることの重み、いくら血族とはいえ、これを担うのは並大抵のことではないはず。
ダンスははマイケルの遺した振付師チーム(Rich + Tone)の指導のもと、約2年間にわたってリハーサルを継続したようで、ボーカルは彼の肉声とマイケルの声のハイブリッド。
それにしても憑依感が半端じゃない。
この演技力だけでも見る価値がありますし、努力でどうこう出来ない、血脈の力を感じさせられる。
説得力が凄いんですよ。
一番痺れたのはやはり終盤のライブシーンで、頑なに父親と目を合わせることが出来なかったマイケルがようやく目を合わせるという場面。
あの瞬間、マイケルを理解出来ていなかったのは父親の方であり、それ以上に支え、応援してくれる人がいるということ。
何より、序盤の幼少期から目を合わせられなかったのは”彼の弱さではなく、優しさだった”ということが感じられた瞬間。
強き心を持って優しさに変え、全方位に伝播させる能力。
今となっては有象無象の情報が出回っていますが、ピーターパンに憧れ、ネバーランドを夢見た少年の心を持った人物だったのではないかと様々な振る舞いを見ても感じるところであります。
父親との確執や関係性、年月が飛ぶ過程での違和感も否めないところはありますが、それもマイケルの濃密な人生を全て描き切ることは不可能なわけで、続編もありそうですが、それでもどこにフォーカスするかという選択は迫られるわけでして。
いずれにせよ、マイケルを知っている人も知らない人も、音楽を愛するのであれば是非劇場で体験してほしいものです。
では。
劇場のスピーカーを揺らしていたあの圧倒的なベースラインと、計算され尽くしたメロディの粒子が部屋を満たしていく。針を落とした瞬間に立ち上がる音の宇宙は、今なお色褪せることがない。
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