『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』

イラストやゲームの分野で活躍してきた3Dアーティスト、ジュリアン・グランダーが自主制作で4年の歳月をかけ、長編初監督作として完成させたアニメーション作品。
フロリダの郊外。高校を中退し、フードデリバリーで生計を立てる16歳の少年ビリー・5000は、この町から抜け出すため、5000ドルを稼ぐことを目標に奔走している。しかし、配達先で出会う人々や出来事は、どこか風変わりなものばかりだった。ある時、ジュース業界の女王ドクター・ドルフィン率いる「ドルフィン果樹園」に配達で訪れた彼は、そこで果樹園の内部崩壊を企む少女ローズバットや、奇妙なエイリアンと遭遇する。それをきっかけにビリー・5000は、愛や友情、そして何よりも大切なお金についての難しい選択を迫られる。
監督のグランダーは、アドベンチャーゲーム「ART SQOOL」などで知られ、本作でも独特の色彩と造形による映像表現で日常の風景を再構築。5000ドルを稼いで人生を立て直そうとするティーンエイジャーの姿を、幻想的な青春映画として描いた。インディ・メンフィス映画祭最優秀長編劇映画賞を受賞し、新千歳空港国際アニメーション映画祭、トライベッカ映画祭やオタワ国際アニメーション映画祭など、各国の映画祭に出品。声の出演はジャック・コーベット、タビ・ジェビンソン、エルシー・フィッシャーら。
予告当初から観たいと思っていた本作。
『MOTHER2』が好きな身として、さらにヘンテコで不可思議な世界観を持つ作品というのは何故か現実、非現実を問わず惹かれてしまうところがある。
そんな本作ですが、アニメーションのほとんどは監督ジュリアン・グランダーが手掛けたとのこと。
下記のインタビューに詳しく書いてあるのですが、チャールズ・シュルツによる『ピーナッツ』に影響を受けていたというのは腑に落ちましたね。
特にホリデースペシャルからの着想というかアイデアが浮かんだというところ。個人的にもあの独特の多幸感、オリジナリティは好きなところでもあり、ホリデーを彩る雑多さが何とも言えない魅力を醸し出すんですよね。
とまあ、ビジュアルはあくまでもパステル調でおもちゃ的であるルックスながら、その中身は現代を強く反映していると感じさせられる。
まず、ルックですよね。画の。
独特の質感を伴い、硬質に見えて柔らかそうでもある。そこに意味不明な設定と意味不明なキャラクター。
現実的であるように思える人物たちでさえ、あの世界と一体になることで不可思議な感覚を抱かせる。
街並みや風景もそうで、全てがレゴなどのような作られた、偽装された世界を想起させ、そこに暮らす限定的な世界の住人としての彼ら、彼女らが存在する。
この作られた街に生きる限定された住民という設定そのものが、実は世界そのものの形と似ているわけで、もっと言えば資本主義の構造、国の構造というものがそもそもはそうした枠組みを定義し、テクノロジーにより束縛という枷を強いられる。
登場人物のビリーというのはギグワーカーであり、それ自体も枠組みの中での新しい立ち位置というのが斬新に映る。
必用以上にテクノロジーに縛られ、生活を”主体的”に営むものから”受動的”に営むものへと変容させられたメタファーとして見え、自分自身に対する問いとしても朧げに浮かび上がってくる。
「何のために生き、何のために生活しているのか」
立場が違っても同様で、ドルフィンの工場の令嬢でさえ幸せそうには見えない。
結局のところ自らの意志で自らの道を歩まぬ限り真の満足を得られることは無いのだろうということが全てのキャラクター達を通して透けて見える。
それをあのPOPなカラーリングと世界の中でやるからこそ痛々しく映らないところだし、加えてのエイリアン的な謎の生命体が登場するというのもまた同様の効果として良く機能しているように見える。
彼らの視点が人間の置かれている状況から切り離され、俯瞰した視点から描かれているというのも面白いポイントで、彼らが自由に振舞い、行動するからこそ人間の操られているかのような行動原理がいっそう滑稽に映る。
ホント傀儡人形のようなんですよね。生きているというより生かされているというか。
そうした世界の表面と裏面を見せ、地上と土中を対比して見せる。
この見えていない世界の見えていない構造こそが理想とするものを繁栄しているようにも見え、いずれにせよどちらを選択するも己次第ということを突き付けられているような気がしてくる。
加えてサウンドのテクスチャーも映像と相性がすこぶる良く、ままならない世界の混沌さを軽妙に語り、ローファイで浮遊感のあるDIYサウンドが揺蕩う空間と見事にマッチしている。
あれも監督自身で制作しているというから驚きですよ。サントラも必至。これも世界観の構築にただならぬ影響を与えているのは確か。
前出した『MOTHER2』もそうですが、どことなく街並みと調和したような2D空間的なるサウンド。奥行きというより横への広がりを思わせるところがあり、それがなんだか心地良い。
とにかく全編に渡りローファイな空気が漂い、物語自体も硬質感の無い浮遊性に満ちている。
それでいて脳内で紡がれていくストーリーは現代的であり、わりと辛辣さもあるというのが不可思議で見入ってしまうところでもある。
まあ、そんなことは考えずとも漂うようにその世界を堪能すればいいというのは全ての作品に共通するところでもあり、映像世界をダイレクトに受け取れば良いとも思う。
個人的には
「私たちはこの世界でどう生きるのか?」
決められた枠組みではあるかもしれないし、状況も変えれるものでは無いのかもしれない。それでもどうありたいかを考えることは無駄では無いと思いたい。
では。



