『メゾン・ド・ヒミコ』

「ジョゼと虎と魚たち」の監督・犬童一心と脚本・渡辺あやのコンビ作第2弾。
ゲイの父親が家を出て、母は病死し、ひとりで暮らす沙織。彼女のもとに、ある日、父親の恋人である青年が訪ねてくる。青年は沙織に彼女の父親は癌で死期が近いことを告げ、父親が経営するゲイのための老人ホーム、メゾン・ド・ヒミコで働かないかと誘う。最初は借金返済のために手伝いを始めた沙織だったが……。
人気俳優オダギリジョーと柴咲コウが初共演。
ゲイというある種独特なコミュニティを媒介にし、人間の生を本質的に炙り出す。
ただのゲイものと思って観ると意外に面食らう、というのが当時の印象であって、最初に観た時はその中身の詰まった物語、人たるコミュニケーションの存在にやきもきしたのを覚えている。
舞台はゲイの老人ホーム、冒頭の詠歌極めた都会の街並みとナレーションによる人物紹介、そこからタイトルまでの流れが妙に心地良い。
ギラついた冒頭の印象と対比するように牧歌的な老人ホームのルックに変わるわけですが、オダギリジョーの美青年っぷりが半端じゃない。
メゾン・ド・ヒミコと称する老人ホームのカラーリング、雰囲気を体現したような爽やかさ。
『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオ、とまではいかないかもしれないが、その程度には衝撃を受ける。
同時に柴咲コウの野暮ったい出で立ち、冴えない感じというのもまたよろしく、生き辛さと葛藤を抱えた人物としての演技力が光る。
そして『国宝』でもその抜群の存在感を発揮していた田中泯が本作でもさすがの演技力で、別格のカリスマ性を纏う。
こうした役柄の難しさ、大勢の中に埋もれない個性というのは本当に稀有な存在だなと今観ても思うほど。
人となりや歩んできた人生を感じさせる機微の豊かさ。
131分と決して短い上映時間では無く、話自体も単調な老人ホームでの日常が続くという日常もの。
それなのに彼らの日常を観ているだけで、ゆったりとした、人生を噛み締めるような瞬間の喜びを共有することができる。
ゲイの方が纏う、”自由に生きられればそれだけで楽しい”という側面が遺憾なく発揮され、それが演者を通じてダイレクトに伝わってくるというのも大きなところなのでしょう。
ただし、本作の奥行を出しているのはそれだけではない現実の側面、差別や偏見、家族や職場との軋轢。負の側面を描き出しながらも自分らしく生きるということの意味や意義みたいなものを語るところにおいてこそ深みが出る。
振り子のようなもので、自由に振舞えばそれだけ軋轢が生じる。そうだとしても本作に出てくるような日々の生活を見ると、どうせ一度きりなら思うがままに生きてみたいとも思えてくる。
葛藤を抱えても瞬間の楽しさ、純粋さを謳歌したいという願望が。
話の光明として、差別や偏見といった社会的目線に対しての否応なさも表現されているわけですが、そこにネガティブさは介在しながらも偽善的な円満スタンスで無いというところに納得感があり、共感性を引き出している。
性と生、互いに違うものであり、相互に関係もしているような概念。
曖昧で傷付きやすいものだからこそ触れることを躊躇われ、それでいて強烈に欲しもする。
抗えない感情だからこそ、こんなにも悩み苦しむのかもしれないと思ってしまうような曖昧模糊さが介在する。
ファッション面に関しても今にして優れたところがあり、オダギリジョーのスタイリングが抜群過ぎる。
白シャツを基調とした着こなしが目立ち、インナーは着用しないイタリアンスタイル。
ラフな首元とヘアスタイルの相性が良く、無精ひげが殊更似合う。

淡いカラーリングの合わせも多くみられるが、いずれにせよシャツにコットンパンツorスラックスのバランスが良い。

徐々にラフさも見せる後半からはVネックをさらっと1枚で合わせ、この野暮ったさとクリーンさのバランスが秀逸に映る。
Tシャツもタイトなものを着用し、質の良さが際立つホワイトTのサイジングが絶妙で目を引く。
セットアップでもこの白合わせという尖ったスタイリング。それなのにオダギリジョーならば自然と映える。

脚本には渡辺あや、音楽に細野晴臣と豪華な顔ぶれで、若き西島秀俊も相変わらずサイコパス感を醸し出す役柄として絶妙に機能する。
セリフの気付きも中々染み入るものがあり、卑弥呼が柴咲コウ演じる沙織に対して述べた「あなたには、何もしてあげられなかったね。」というのは父親として以上に人としての本心から出た言葉であると感じられ、その母に対しての「いつもお店に最高のオシャレをしてきてくれた、そういうところが可愛かった」というのも性差を超越した心情の吐露だったように見受けられる。
とにかく人としての、人間としての性差を越えたところでの感情の発露というのを感じさせられる移り変わりがあり、人間の深みのようなものを余韻として残す。
道中、沙織に対してオダギリジョーが抱いた感情、終盤で細川に対して羨ましく思ったこと、そしてラストでの沙織への心情というのはそれら全ての過程を経た人間としての純然たる感情の変遷と捉えると、差別、偏見が如何にチープであるかということを思い知らされる。
単純な問題に収束しない難しさを紐解き、純然たる感情の核心に迫る、今観ても良き作品でした。
では。



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