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『飢餓同盟』レビュー:滑稽で冷酷な“権力の寓話”は今なお私たちを映す

『飢餓同盟』

権力への羨望が、人を町を狂わせる。
地方都市を舞台に、人間の滑稽なまでの生態に迫った傑作。

眠った魚のように山あいに沈む町花園。この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟”のもとに団結し、権力への夢を地熱発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。(解説・佐々木基一)

皮肉的であり、現実そのものでもあり。

過去と現在というものが変わらずに地続きだということは承知の上で、こうも総括として変化に乏しいものであり、概念的な変化無き構造に虚無感を覚えてしまうことがある。

権力や希望というものに取り憑かれ羨望する過程というのは誰しもが一度や二度は思い描く夢のような話として、創造に難しくはない。

その過程を滑稽で寓話的にすら見えてしまう世界を描いた本作は多分に漏れず、人間の、というより組織や社会、世界そのものといった縮図を想起させる。

我々が生きるのはあくまでも集団の中であって、そこでの一個人というものはあるにせよ、その一個人で変革できることには限りがあるということを図らずも体感的に知覚している。

だからこそ集団で、同じ志のもとに集まる同士と共に何かしらのことをなそうとするわけですが、それが如何に難しく、困難なことか。

逆に言えば一度権力や富というものを持ってしまったものはそこから転落するというのは革命や大事などが無ければ起こらないというのもまた皮肉である。

そんな革命でさえ成功の確率は極めて低く、力が強大であればあるほど、世界の転覆ほどの偶然性無くして達成は非常に困難に思われる。

奇しくも直近で鑑賞した『ワン・バトル・アフター・アナザー』もそうした革命の物語なわけですが、そちらの革命にしろ、似たような結末を迎えるという。

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変革は闇に淘汰され、希望の一端を僅かな可能性の中に、灯火のように灯す以外に道は無いようにさえ思えてくる。

ようするに一人の人間によって大きな転換を成し遂げるのは不可能で、同時に一時の変革によりそれを達成することもまた不可能ということになる。

主人公である花井のラスト、精神分裂になり・・・ということを考えると自己の精神の崩壊=精神の死という身体的に死ぬか精神的に死ぬかという究極的な二択以外、強大な力の前では役不足となるという抗えない無慈悲さが染み入る。

このように書くと本当に希望の無い話だなと思ってしまうのですが、安部公房の手にかかるとこの狂気じみた世界の縮図でさせ、滑稽で面白い、馬鹿馬鹿しさを伴った物語に変質するから不思議である。

出てくるキャラクターの豊かさ、設定上の冥利は当然として、徐々に枠組みを広げ捉えられる、物語の核心への道筋が軽快で痛快。

特に織木という登場人物と共に地熱発電の箇所を探る描写というのは海外文学的なユーモアに溢れ、音符に所在を起こす発想の奇想天外さ、実際の様が目に浮かぶようなシュールな面白さが混在する。

大きな力に抗おうとする時、抗わなければいけない時、この話の新の意味に気付かされるかもしれないと思いつつ、今の世界の情勢がそれを示唆しているようにも見えてくる。

本著はラストが初期刊行版と異なるものになっており、その辺も比較してみると面白いかもしれない。

物語の結末における具体的な違い
物語の終盤、主人公の花井が主導した地熱発電所の計画は、町の権力者たちによってその成果を奪われてしまいます。この基本的な筋書きはどちらの版でも共通していますが、その後の花井の運命の描かれ方が異なります。
  • 初版(より絶望的な結末): 花井は計画の失敗と裏切りによって完全に打ちのめされ、発狂してしまいます。 彼はカーニバルの道化王にすらなれず、革命の夢は完全な破綻を迎えます。これは、個人が巨大な社会構造や権力に飲み込まれ、精神的に崩壊していくという、より救いのない結末を強調しています。
  • 改訂版(より政治的な含みを持つ結末): 改訂版では、花井が発狂するという直接的な描写が和らげられ、代わりに**「狂人として扱われる」**という、社会的なレッテル貼りに焦点が当てられます。これは、彼の革命運動が、権力者側によって意図的に「狂人の戯言」として無力化されていく様をより鮮明に描き出しています。また、改訂版では共産党員である貝野の描写が増え、花井の革命思想との対比が強調されることで、物語全体がより政治的な寓話としての色彩を帯びています。

個人的には初版のような結末が好みであり、容赦の無い、社会からの返答こそが現実の世界により即しているような感覚を抱かせる。

では。