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18分で崩壊する世界、静かに燃え続ける“覚悟”──『ハウス・オブ・ダイナマイト』を観て

『ハウス・オブ・ダイナマイト』

ポスター画像


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女性監督として初めてアカデミー監督賞を受賞した「ハート・ロッカー」や、アカデミー賞5部門にノミネートされた「ゼロ・ダーク・サーティ」で知られるキャスリン・ビグローが手がけたポリティカルスリラー。

ごくありふれた一日になるはずだったある日、出所不明の一発のミサイルが突然アメリカに向けて発射される。アメリカに壊滅的な打撃を与える可能性を秘めたそのミサイルは、誰が仕組み、どこから放たれたのか。ホワイトハウスをはじめとした米国政府は混乱に陥り、タイムリミットが迫る中で、どのように対処すべきか議論が巻き起こる。

「デトロイト」以来8年ぶりとなるキャスリン・ビグロー監督作。イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソンを筆頭に、ガブリエル・バッソ、ジャレッド・ハリス、トレイシー・レッツ、アンソニー・ラモス、モーゼス・イングラム、ジョナ・ハウアー=キング、グレタ・リー、ジェイソン・クラークら豪華キャストが集結した。脚本は「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」やNetflixドラマ「ゼロデイ」を手がけたノア・オッペンハイム。撮影は「ハート・ロッカー」「デトロイト」のバリー・アクロイド、音楽は「西部戦線異常なし」「教皇選挙」のフォルカー・ベルテルマンが担当。2025年・第82回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Netflixで2025年10月24日から配信。それに先立つ10月10日から一部劇場で公開。

本番は唐突に訪れる。

そんなことが頭をよぎりつつ、着弾までの18分間という極めて短い時間内での様々な人物の視点から描かれる物語。

言われずともわかってはいるが、実際に危機が訪れる時というのは本当に唐突かつ、それまでに残された時間というのもまちまちだということを身を持って知らされる。

スリリングな視点と、カットの不安定さ、手持ちを含めての緊迫感がそれぞれの視点から観られるわけですが、そのヒリヒリ感が半端じゃない。

いつも通りの日常を送り、その後も日常が繰り返されると疑わないのが当然であって、その映像との対比が更に高低差を生み、現実が揺らがされる。

このような事態に遭遇した各々の思考や対応というのもリアリティがあり、原因を突き止めようとするものもいれば、ジョークやミスと捉える人物もいる。かと思えば行動や事実にのみ着目し、その行為にどう対処するかとクールに捉えるものもいる。

共通するのは自分の身の回りの人物たちに対する”気遣い”というところであり、そこには絶対的な別格さが存在する。ずるいとか卑怯だとかはさておき、真にこういう事態の場合はそうなるのだということを思い知らされる。

積み上げた経験や知識、お金、地位、名誉、生きがい、そうした人生におけるあらゆるものを巻き込みながら、本当に重要なもの、自分が必要としている”価値観”に対して否応なく向き合わされる。

天災や事故などではなく、人によってこうした状況が意図的に作り出せてしまう世の中という不条理さを痛感するとともに、旧来の戦とも異なる、一瞬で世界がひっくり返る現実というものを目の当たりにした時、本当にどういう世界になってしまったのか。

これからその様相というのは一層強まるであろうことは確かだろうし、技術の革新により加速度的にスケールの違う進化や変化を伴うのは間違いない。

人の本質とは、人生の本質とは、そんな根幹を揺るがされるような新世界を見せられた気がした。

役者陣の演技力も迫真に迫っており、リドリス・エルバ演じる大統領も一人の人間でしかなく、揺らぎの伴った人物描写というのは見事でした。レベッカ・ファーガソン演じる大佐は妻として、母として、大佐としての覚悟を伴った視線というのは痺れましたし、その気概が演技として表出していたのも印象深い。

その他の人物もそれぞれの人間味と仕事における役職の立場、葛藤する心理描写の浮き沈みが状況の展開と並行しグラグラ揺らぐ。

本作を観ていて確信的に頭に漂ったのが”責任ある立場には真の器が問われる”ということ。

一切を抜きに、ただその人の人となり、見せかけや偽善、損得勘定では片付けられない人間性無くして、その立場にいるべきではないと。

社会的に評価され、如何に高貴なオーラを纏おうとも、中身がどうなのか、表面上のそれらとは全く別の価値判断で計った時、どういう人間性が出てくるのか。

別段偉大な人物になりたいという願望は無いが、失望させるような人物にはなりたくない。そう思わずにはいられない、今ならではの作品をよくぞ描いたなと思わされる。

『ハートブルー』以降、好きな監督ではあるが、現実を切り取るような鋭利な視点というのはますますその強度を高めているかもしれない。

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非常に現代的なテーマであり、現実に起きうる、最中にありつつ、その影響や度合いを理解していない人々にとっては良薬になるような素晴らしい作品でした。

ネットフリックスオリジナルなので一部の映画館でしかやっていないようですが、観られる方は是非映画館で。

では。