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『ウムヴェルト』に宿る五十嵐大介の“環世界”──精緻な短編集の神秘を読む

『ウムヴェルト』

『ディザインズ』『リトル・フォレスト』『海獣の子供』などで絶対的な支持を獲得している五十嵐大介の作品集、待望の登場! 

2004年から2014年にかけて描かれた短編は、「この世界のどこかにいる、かもしれない」──そんな「未確認生物」をモチーフとした珠玉の10タイトル。『ディザインズ』の原型となる読み切り『ウムヴェルト』も網羅し、五十嵐大介の環世界が惜しみなく放たれた1冊!

これぞ五十嵐大介な世界を堪能できる珠玉の短編集。

精緻なタッチ、独特の世界認知、彼が作り出す漫画の世界というのは、本当に独特で重層的な世界観に溢れている。

10本の短編が掲載されているわけですが、全てにおいて五十嵐印であるところは間違いないですし、好きな作品というのも個人個人であることでしょう。

私個人として好きだった作品は「ガルーダ」「鰐」、そして表題の「ウムヴェルト」。

「ガルーダ」に関して、なんてこと無い田舎町でのほのぼのとした描写が生きる、そしてある一点を境に、突如として高揚感が募る。

舞の部分がそれなのですが、この世界と一体となったような、まるでそれを眼前で見ているかのような存在感。

それまでの世界を一変させるということを画の筆致、構図により感じさせるというのは五十嵐作品には間々あるわけで、現世界と切り離され、ギリギリで繋がり、とてつもないようなものを見たというような感覚を残すというのはさすがとしか言いようが無い。

そして「鰐」。

荒唐無稽な設定、伝承のような事柄をモチーフとしつつ、子供と大人、田舎と都会、といった対比構造を上手く取り入れる。

見た時期が夏ということもあるのでしょうが、舞台となっているのもおそらくは夏。

気温や湿度、天気のそれさえも画越しに伝わってくるような温もりを伴う筆致。

パッケージングの鬼だなと思わされるようでいて、僅かな描写が生き生きとしている。動植物の夏らしい生命感や水辺での音の描写、そして何より影の描き方というのが好きなところで、影が影としてダイレクトに生じる。

見て、表現として、伝わってくるというのは当然なのですが、なんというか、体感として影があることが認識できるとでも言いましょうか。

少しの違いは大きな違い。

そして終盤にある大きな生物が登場するわけですが、その描写も紙面におけるサイズの縮尺を利用し、ダイナミックさと繊細さを共存させたようなビジュアライズ。

神秘ってそういうことだよなということを改めて感じさせてくれるような。

その後の描写というのも実に余韻深く、思考を風景に投射したようなコマが並び、余韻を波紋のように微弱に残す。

最後は「ウムヴェルト」。

まず序盤のカラーページにおける表現の豊かさにやられるわけですが、そこからの物語というのも冒険的であり、哲学的であり。

人間の真理や世界の習わし、生物達の根底を垣間見るような広大な世界観。

全編に通して言える、”精緻さ”という事柄、そして、このお話のダイナミズムが非常にいいバランスでリンクし、寄りと引きで世界を知覚するような感覚。

細やかでディティールに溢れた表現力というのはそれだけで見るものに語りかけるわけで、生物を通しての世界の認知を言葉と画で図らずも問いかけてくる。

かと思えばアクションシーンのような動きのある部分ではそれこそ躍動感と奥行きを感じさせる構図。

コマ割のスピード感も相まって妙に心地良い。

そしてそれらを持って、宇宙レベルでの神秘的なる問を残し、余韻として思考をジャックする。

生物への賛歌、世界への賛美、人間に失われてしまったのかもしれない、太古の世界に対する憧憬の念のようなものを感じさせる良き作品でした。

とまあ、生物を通して見る世界への導入の数々。

この世界は面白いもので満ちているはずで、それを認識できなくなり、近視眼的になっていく人間というものを受け入れれば、また、別の角度から様々な物事を捉えられるのかもしれないとすら思わせてくれるような、そんな短編集ではないでしょうか。

では。