『13階段』

宮部みゆき氏絶賛!!!
手強い商売仇を送り出してしまったものです。――(本書解説より)犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
思い描く犯人像が移り変わる。
話の始まり、徐々に明かされる真実、そこかしこに散らばった伏線が頭をかき乱し、そのどれが真実で、というよりも何を信じればいいのかの輪郭が曖昧にぼやけてくる。
正直読み始めての感想というのはそこまで傑作と言われるところがわからず、むしろどういったところに話を展開していくのかが見えてこない。
まあ、こちらの先入観というのもあるわけで、警戒しているが故に話の裏を見ようとしてしまう。
ですが、話自体の面白さは序盤からあって、読めない展開や不可思議なバディなど、物語をドライブさせていくには十分過ぎる要素が散りばめられている。
重なりそうで重ならない複数事件の存在というのも面白い要素で、この辺の関連性、それにかかわる人物たちの関係を想像しながら読み進めるのも引き込まれるポイント。
会話劇から真実を炙り出すというよりは、起きている事象や事実などから想像を紡ぎ、真相を解明するような構成。
まるで何者かにでもなったような感覚を抱かせるというのもあってか、主観による体験めいた展開で物語が進み、思考が回転させられていく。
階段の意味は何なのか、すれ違う事件の関連性は。
疑えば疑えるし、信じれば信じられる。
”信じる”というところにおける不動明王のモチーフめいた存在感。贖罪と救済、神による裁きと人間による裁き、階段というモチーフの象徴性、現実社会の制度や倫理の矛盾を通じて精神性を問うということも込みで何を信じるべきなのか。
価値観を試されているような構成と、法に対する認識の問い直し。真に見るべきものを考えさせてくれると同時に、本筋のミステリー部分も綿密に練り込まれている。
3/4あたりでの、ある事実が判明した時の衝撃はヤバかったですね。
そこまでの自分を試されているかのような。
本だけでは体験不可能な、人と人、生身だからこそ感じるようなそれぞれの肉感を伴った、心証を頼りにしていく様などは、想像の中でではあるが、スリリングで、純粋に揺さぶられる。
徐々に真相の形が見え始め、物語の加速と共に読む手も加速する。
そこからはあっという間でしたね。
死刑制度に対する自身の見方、社会というものの不条理さ、人を信じるということの重要さ、改めて自分の視点を見直す契機にもなり、抜群に面白いミステリーも堪能できた。
最後に作品の小ネタでも
1. 著者の出世作
『13階段』(2001年)は高野和明のデビュー2作目で、第47回江戸川乱歩賞を受賞。これがきっかけで彼は広く知られるようになり、後の『ジェノサイド』で直木賞候補にもなるなど、キャリアの礎を築いた重要作です。2. 「13階段」は死刑囚の階段
タイトルの「13階段」とは、死刑執行時に絞首台へと続く階段の段数を意味しており、死刑制度そのものを象徴しています。このリアルな数字は実在の東京拘置所の絞首台が13段であることに由来しています。3. 死刑制度への問いかけ
単なるミステリーではなく、日本の死刑制度や更生の可能性、冤罪の問題などを正面から扱っています。作者自身が「テーマ先行で書いた」と語っており、社会派推理小説としての一面も持っています。4. 刑務官の実体験を参考に
作品中の刑務官の描写は、実際に刑務所で働いた人物からの取材や資料を基にして描かれており、リアルな裏側が丁寧に描写されています。5. 作者は元脚本家
高野和明は元々、映像業界で脚本を手がけていたこともあり、場面の描写や展開のテンポが非常に映像的。そのため「読む映画」としても評価されることが多い作品です。
では。
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