『ラストシーン』
「怪物」「万引き家族」の是枝裕和監督が手がけた短編映画。iPhoneのみを使って写真や映像を撮影するAppleのキャンペーン「iPhoneで撮影 ― Shot on iPhone」の一環として制作された作品で、全編をiPhone 16 Proで撮影した。「未来に何が残り、何が消えるのか」をテーマに、テクノロジーが進化する中で50年後にも残したいものとは何かを描く、タイムトラベルラブストーリー。
撮影中のテレビドラマ「もう恋なんてしない」の脚本家・倉田の前に、50年後の世界からタイムトラベルしてきたという女性・由比が現れ、倉田にドラマのラストシーンを書き直してほしいと頼む。倉田は、未来からきたという彼女のことがにわかに信じられなかったが、現在の脚本のままではラストシーンが酷評され、そのせいで未来の世界からテレビドラマがなくなってしまうこと、そして由比が「もう恋なんてしない」主演女優の孫であることを知り、脚本を書き直すことにするが……。
脚本家の倉田を是枝作品初出演となる仲野太賀、未来からきた女性・由比を福地桃子が演じ、そのほか黒田大輔、リリー・フランキーが共演。「海街diary」「そして父になる」などの是枝作品で撮影を担当してきた瀧本幹也が撮影監督を務めた。主題歌はVaundyの書き下ろし楽曲「まじで、サヨナラべぃべぃ」を起用。2025年5月9日にApple TVアプリおよびYouTubeで公開された。
是枝監督クラスの方がこういった短編の、しっかりとした映画を撮るとは。
まずもって時間が27分とメチャクチャ短い。(まあもっと短い短編も相当数ありますが)
ですが、是枝監督がこうしたショートを撮るということ、演者が普通に豪華だということをふまえるとある意味で貴重かなと。
主演の仲野太賀さん、メチャクチャ良いんですよね。
最近本当に好きな俳優さんの一人。
演技もですが、人柄、パーソナリティの部分含め、カッコイイ。
作品内での役柄も自然体で、こうした作品におけるその自然体は非常に効果的で魅力的に映る。
そんな本作は全編をiPhone 16 Proで撮影しているとのこと。
これがスマホで撮れちゃうんだから、過剰というかなんというか。もはや誰でも何でもやる気になれば出来てしまうのではと思ってしまうほど。
昨今って、タイパなどから映画も短め、もしくは倍速で観る人が増えているようですが、そこに対するある種のアンサーを見た気もしますね。
個人的なアンサーとしては”映画はやはりある程度の尺で映画としてあるべき”というもの。
短編には短編の良さがあり、本作で言うと設定と展開のテンポ、ある種MV的である楽曲の使い方や画作りなど、サクッと観れてしっかりと満足度もあるというのは良点だと思います。
ですが深みや浸透する時間を考えると、体感として早過ぎる。没入というフェーズに対して短すぎる。
この話で述べられていた「何かを得るには何かを失わなければならない」。
未来への、そして現在への問いでもあり、何を残して、何を失うのか。
映画の中でその過去、現在、未来という時間軸を通して見えてくる”存在”というものの確かな感覚。
思いや体験を通し、得る感情、かけがえのなさ。
単純な二項対立でなく、もう少しポイントを掻い摘んでの選択でも良いのかなと思うところに、この映画のエモーショナルさが潜んでいる。
単純に映像としての画は美しいですよね。
冒頭のファミレスでのシーンに始まり(これがまた好きな始まり方)、、そこからの青春の甘酸っぱさと、思い出の起伏が妙に刺さる。
くるりの「ばらのはな」が流れたシーンではアガりました。
トンネルを抜ける前と抜けた後の抜けの良さ。さらには爽快感も相まって、楽曲の良さが際立つ際立つ。
シチュエーションを上手く捉えた海岸沿いであったり、観覧車からの夕日といった、美しく見せる構図を捉えるのも瀧本幹也さんが撮影監督を務めているというところもあり、さすがだなと。
感情と思い出がリンクするからこその橋渡しとしての映画による介在。
失ってしまったものと、失ってはいけないものの線引きを感じさせられた作品でした。
作中におけるテーマ性と映画そのものが内包する機能性、この辺のズレや解釈を融和していく中で、映画というものの本質が垣間見えるというのも面白い作品でした。
変わるものと変わらないもの、良し悪しと共存をにおわせる。
では。