『場所はいつも旅先だった』
文筆家、書店オーナー、雑誌「暮しの手帖」の元編集長などさまざまな肩書きを持つ松浦弥太郎が初監督したドキュメンタリー。サンフランシスコ(アメリカ)、シギリア(スリランカ)、マルセイユ(フランス)、メルボルン(スペイン)、台北および台南(台湾)と、世界5カ国・6都市を旅した松浦が、各地で体験した出会いとかけがえのない日々を、飾らない言葉でエッセイ集のようにつづっていく。朗読を脚本家・演出家の小林賢太郎、主題歌をアン・サリーが担当。
ポスタービジュアルからして好きが詰まっている。
日常という当たり前の中に翻弄される日々。
SNSを筆頭に、デバイスやデジタルから切り離されない制約を受け、それにより知らず知らずのうちに疲弊していく。
そうした時にそれらから切り離されるような空白、時間の優位性があるよなと思っており、それが高まった今観たいと思えたのが本作。
先に書いたビジュアルの件から想像できるところで、美味しそうな朝食というのはそれだけでいつもと違う彩りが添えられる。
ドキュメンタリー形式で各国のポイントが語られていくわけですが、その視点は一般的な旅の体を成すというよりも松浦弥太郎氏による独自の感性が非常に興味深く美しい。
冒頭のナレーションで語られるように、松浦氏は旅において好きな時間は”朝”と”真夜中”だと述べられている。
その観点から色や文化、人々のコミュニティといった部分にフォーカスしていくわけですが、これが無性にワクワクする。
旅先というとそれだけで心躍るわけですが、朝、真夜中となるといっそうそのワクワクさというのは助長されるわけで、冒険心や好奇心といった類の独特な感覚を刺激される。
なぜなんでしょうね。
あの感覚って不思議ですよね。
旅先ならではというか。
俯瞰してみると、自分たちにも日常があり、当たり前に過ごしていることがある。
他国、他者のそれらを覗くと同様のことのはずなのに自身には新鮮に映り、様々な感性を刺激される。
しかもそのどれもがポジティブで、本質的な前進を感じさせてくれるようなドライブ感に満ちている。
旅情という言葉があるように旅には独特な感情が加わるというのは今に始まったことではないこと。だからこそ旅は経験であり、新しい発見の場でもあるのでしょうか。
本作が魅力に見える点として、”食事”というのも外せない。
食べ物こそ、その土地の文化や魅力が詰まっており、言語が通じなくても感覚で通じる”美味しい”ということ。
それがあれば結果ハッピーだし、その感覚というのは誰とでも共有できる。
しかも文化やカルチャーといったものを多分に含んだスポンジのように膨張し、観たことのない未知の好奇心が詰まっている。
そうした物事が映像として、画として存分に使われていることも味わいを深くさせ、脳内に彩りをもたらす。
78分というコンパクトな作品ですし、風景、雰囲気、それらを楽しむだけでも癒やされる。
旅に出るというハードルを取っ払い、自分にとっての非日常を味わいに出かけてみるのもいいのかもしれないですね。
では。
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