『ロスト・ハイウェイ』
「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」以来5年ぶりに長編映画のメガホンをとった不条理サイコスリラー。
妻と平凡な生活を送るサックス奏者フレッドは、ある朝、自宅のインターホン越しに「ディック・ロラントは死んだ」という謎の声を聞く。それ以来、彼と妻の生活を盗み撮りしたビデオテープが届くなど、不可解な出来事が相次ぐように。やがて妻の惨殺死体が映ったビデオテープが届き、彼は妻殺しの容疑で逮捕されてしまう。
「インデペンデンス・デイ」のビル・プルマンが主人公フレッドを演じ、「トゥルー・ロマンス」のパトリシア・アークエットが共演。「イレイザーヘッド」で知られる俳優ジャック・ナンスの遺作となった。「ブルーベルベット」など多くのリンチ監督作を手がけたアンジェロ・バダラメンティが音楽を担当し、ロックバンド「ナイン・インチ・ネイルズ」のトレント・レズナーがサウンドトラックのプロデュースを手がけた。2025年3月、4K版を日本初上映。
狂気極まれり。
夢か現実かの世界を行き来し、自らも睡眠と鑑賞を行き来する。
何を見せられているのかわからないというのはリンチ作品のよくあるところで、それを好きになれるか否かで世界に没入できるかが決まるともいえる。
冒頭に流れるデヴィッド・ボウイの楽曲と、暗闇を走る道路のみの疾走感。これはかなりハイテンションでクレイジーな物語が期待できるのかというのも束の間、早々にクレイジーさだけが滲み出た世界へ流れ込むことになる。
それにしてもリンチはこういった暗闇のドライブ映像が良く流れる。
「ディック・ロランドは死んだ」という始まりにあるように、ストーリーだけを聞くと非常に興味深そうなもので謎が謎を呼ぶミステリーにも思えてくるのだが、その実、映像で説明も少なげに見せられると困惑というか、荒唐無稽な何かを見ているとしか言えない。
不穏なカットや何の意味があるのかわからないカットも多く、そもそも、登場人物たちの行動原理や、意図などがほとんど見えてこない。
フレッドが作中で述べる「現実をそのままに理解したくない」というようなパワーワードがまさに肝で、それを体現したのが映画そのものということになる。
リンチ作品に共通する概念、「映画への理解などというものは個別にあって、本質や狙いなどはどうでもいい」。
理解できなくとも、その世界観に埋没できればそれが映画体験なんですよね。
大きく分けると前半パートと後半パートに別れており、唐突に主人公が変わる展開は不意打ち過ぎますし、説明も全く無いから困惑必至。
ちゃんと見ていないとわからない、でも、ちゃんと見ていられるかというとそうでもない。
展開があまりに単調で、酩酊感漂うサウンド、暗闇を中心とした画作りが余計に夢見がちな世界へ誘わせる。
シュルレアリスムを志向するリンチならではの想像に漂わせる場面構成。わかりやすく繋ぐというより、個々の独立したピースを絶妙な間合いで、コレクトする。
映像の断片性と独立性に重きを置いているようなコラージュ的芸術を想起させる。
それにしても本作の音楽使いに関しては本当にカッコ良く、映像のロートーンさと対比して際立つものが多い。
カチカチとした粒が立つ楽曲が多い印象で、冒頭のボウイにしろ、ナイン・インチ・ネイルズ、マリリン・マンソン、スマッシュ・パンプキン、ルー・リードといったアーティストのチョイスも良く映像とマッチしている。
これはサントラをまず聴いてもらいたいところではあるが、映像にスパイスとしてよりダーティに深みが出るような良きハーモニーを感じさせる。
ビートのキレとダウナーなサウンド、映像の揺蕩う独特な世界こそがリンチワールド。
作品自体の円環構造も徐々にその謎が確信に近づいてくるもので、酩酊による目眩なのか、仕組まれた理解なのか、全てが歪曲して振り出しに収斂する。
一度目よりも二度目のほうが面白いのは間違いない作品だが、何も無い時間を耐えられるか否か、そこまで気負わず、ぼーっと見て作品と同化するというのがオススメな作品ではある。
所々に仕掛けに溢れているし、散らばったピースを自らの頭で組み立てる面白さも転がっている、相変わらずわけのわからない登場人物たちのキレは良く、仔細な部分に目を向けながら夜の街を徘徊してほしい。
では。
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