『マルホランド・ドライブ』
「ブルーベルベット」「ワイルド・アット・ハート」の鬼才デビッド・リンチが、ハリウッドを舞台に2人の女が織りなす物語を悪夢のように不条理な展開で描いたミステリードラマ。
ロサンゼルス北部の山を横断する曲がりくねった道路“マルホランド・ドライブ”。ある夜、車の衝突事故が起こり、唯一の生存者である女は傷を負ったままハリウッドの街にたどり着く。
高級アパートの一室に身を隠した彼女は、そこで女優志望のベティと遭遇。女はとっさに“リタ”と名乗り、事故に遭って記憶を失っていることをベティに打ち明ける。リタのバッグには大金と青い鍵が入っており、思い出せるのは“マルホランド・ドライブ”という言葉だけ。
ベティはリタの記憶を取り戻す手伝いをしようと決意するが……。
主演は「21グラム」のナオミ・ワッツと「パニッシャー」のローラ・ハリング。2001年・第54回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。
極上のミステリーとカオス的世界。
リンチ作品の中で「最も世界観が凝縮されている作品は?」と問われると、まぁこの作品を挙げる形になるでしょうか。それくらいに諸々が詰まっている。
今回折角の一人リンチ祭りなので4Kリバイバルを観てきたのですが、一番驚いたのがその音響。
冒頭からクリアなサウンドが際立ち、背景に流れるノイズや細かい演出音も良く聞こえる。劇中の歌唱シーン、サントラなどもそうで、音が映像を、より鮮明に彩る。
恐怖演出なども一層スリリングに映り、大画面で観るそれは現代の手の込んだものよりもむしろ、根源的な怖さをそそられるほど。
画面のブレ、不穏な音響、ちぐはぐでまだら模様の映像からは確実な恐怖の本質を孕んでいる。
物語としてもわけがわからないというベースは存在するものの、非常に練られているところを感じており、改めて観るとその構造の緻密さに驚かされる。
個人的に思う本作の核心は”理想と現実”であり”実像と虚像”というもの。
構成としては大きく2つにわかれており、前半はベティ、リタを中心としたベティの理想的世界、そして虚像のまやかし。
端的に言って、”なりたかった自分はどういうものなのか”ということについて描かれるフェーズで、まるで夢でも見ているかのような整合性の不安定さは虚像とも重なる。
そして後半パートはそこからのリアルステージ、ダイアンとカミーラを中心に、”では実際はどうなのか”というフェーズに突入していく。
単純に言うとこれだけなんですよね。
複雑に見えてしまうのはコラージュ性、時系列や人物を入れ替えたりしたような構造上の混沌さ、これらが話をややこしくしているだけであって、本筋は意外にシンプルな構成になっている。
では、このややこしさは不要なのかというと全くそんなことは無く、むしろそれこそが魅力。わけのわからなさが映画そのものの質を高めている。
人物、設定、物語のフックがホント絶妙なんですよね。リンチが設定するそれらは独特な雰囲気があり、奇妙で愛らしく、不穏で魅力的、そうした謎な中毒性が存在する。
なんなら、これらを削いだら普通の映画になってしまうという衒いすらある。
色に注目するのも面白い視点で、赤と青の対比が顕著。
赤は”虚”、青は”実”。
明確な色分けかと言われるとそうでもないかもしれませんが、ある程度分かり易く分かれている印象。
演技に関して言うと、ナオミ・ワッツの演技は恐れ入りますよね。
正直、別人かと思うほど、使い分けの人物描写が180度異なり、造形、雰囲気、醸し出す全てが不均衡に映る。
個室で演技を見せる場面でのそれは、別の意味で演技力の高さを思い知りましたし、本当に素晴らしい演技力だなと。迫真に迫る演技はこういうシーンからも感じ取れる。
英BBCが選んだ「21世紀 最高の映画100本」でベストワンを獲得しているというのも納得してしまうほど細部、全体、全てにおいて魅力が詰まっている1本。
元々はドラマとして企画されていたもののようなので、これがドラマだったらどういった展開だったのかということは気になるところですが、それでも映画としてここまでのクオリティに仕上げるところがリンチ、さすがとしか言いようがありません。
取り急ぎ、劇場で観れるのであれば、是非そちらで観ることをオススメします。
では。
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