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デヴィッド・リンチの“静寂”が語るもの──『ストレイト・ストーリー』の魅力

ストレイト・ストーリー

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アメリカ・アイオワ州に住む73歳のアルヴィン・ストレイトは、娘のローズと二人暮らし。ある日、10年来仲違いしていた76歳の兄ライルが心臓発作で倒れたという電話が入り、アルヴィンは兄に会いに行くことを決意する。

ライルが住むウィスコンシン州までは560キロ。車で行けば1日の距離だが、何とアルヴィンは時速8キロのトラクターで旅に出た。

リンチが描くハートウォーミングストーリー。なのになぜだからしさが滲み出る面白さ。

作家性の強さがあるのは承知ですが、こういう作品でもそれを感じるというのは相当に作家性が強いからなのでしょう。

ストーリー自体は至ってシンプル、トラクターでただ兄に会いに行くだけ。

ルックとしても画面を構成するのはおじいさん、畑、以上。

物語に起伏があるわけでも、これといった展開があるわけでも無いのですが、リンチ味が全く損なわれない。

とりわけその要素を感じるのが効果音、カットの部分。

効果音に関してはノイジーでインダストリアル感のあるサウンドが印象深く、ちょいちょい背後で流れていたり、漂っていたりすることで不穏な感情を抱かせる。

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カットに関してはブレや唐突なものを織り混ぜることで、躍動感や焦燥感が急き立てられ、不穏さが漂う。これも普通だと焦りや不安が先行するところなのですが、なぜだかリンチの手にかかると不穏さの方が先行するんですよね。

これが癖になるというか、リンチの良さであって、禍々しいような独特な世界に足を踏み入れる感覚。たまらんのですわ。

本作ではそれにプラスして物語性の豊かさもあり、主人公アルヴィンの行動、発言から読み取れる余白の部分が非常に有意義で情報量が多い。

急げないからこその急がない美学、人生紆余曲折してきたからこその気付きに溢れ、今だから思える機微に満ちている。

道中で出会う人や出来事に際してもその焦らない美学が見受けられ、それが状況を好転させていく様が実に良い。

直接的にそれをするわけで無く、あくまでも一助としてのスローさ。

徐々にその理屈も分かってきた年齢ということもあり、中々に感慨深くもある。

何がそうさせるのかという部分として撮り方もある気がする。背景にある設定がしっかりとしており、かつ語り過ぎない。

ちょっとした行動、ちょっとした発言の積み重ねがバックボーンを語る。画として挿入するのでなく、間で語る。

これが実に見事で、老人の間と余白の間が見事に呼応している。

語るところはしっかりと語るというのもあって、それが物語を充足させているし、想像を拡張させてもくれる。

エドワード・ホッパーを想起させるような構図はリンチ作で良く出てきますが、この親和性も本作は高い。間の美学が生きる作品だからこそ、画として見える間に溶け込んでくる。

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エモーションを掻き立てるシーンというのもしっかりと作られていて、星空の綺麗さ、夕日の美しさ、自然美を賛歌するような画の魅力というのも大きな役割を果たしていると感じるところ。

人生は長いようで短い、焦る時もあるが、焦らずとも良いと気付かされる時も来るわけで、亡くなってしまった今となってはリンチからのメッセージなのかとも思うところではあります。

余白を噛み締め、あるがままを愉しむ。

では。