『夢印 (ビッグコミックススペシャル) 』
ある一つの家族。
ある一枚の絵。
ある一人の謎の男。
多大な借金を負った父と娘が、藁をもつかむ気持ちで訪れた古い館。
看板には“仏研”と書かれている……
館内の暗がりを親子が歩き進むと、一人の男が静かに座っていた。
その男は初対面の親子に告げた。
「夢を見る人にしか、ルーヴルから美術品を拝借した話なんて、してあげないざんす」と………“ざんす”?世界騒然。浦沢直樹、最新作!!!
【編集担当からのおすすめ情報】
今から4年あまり前、2014年頃にルーヴル美術館から浦沢直樹氏に漫画作品の執筆依頼がありました。ルーヴルは漫画を「第9番目の芸術」と認め、ルーヴル×漫画の共同プロジェクトを企画していたのです。浦沢氏は当時抱えていた連載作品で忙しく、長いことその企画に取りかかることができませんでした。その詳しい経緯は、単行本『夢印』豪華版の浦沢氏のあとがきに詳しく書かれてありますが、「9番目の芸術」としてではなく「日本漫画」として描く。漫画は、漫画であって、より自由で、馬鹿馬鹿しくて、美しい。果たして、浦沢直樹氏が出した答えは、「イヤミ」を主人公にするというものでした。赤塚不二夫先生の生み出した『おそ松くん』のキャラクター「イヤミ」。今も東京のどこかに生きていて、日本、フランス、世界の壮大なドラマのうねりを生み出す中心となる。浦沢直樹氏が生み出す「日本漫画」の自由、馬鹿馬鹿しさ、美しさに、是非、酔いしれてください。
漫画が漫画であってそれが良いというのは正にその通りで、芸術的な観点や考察、作品に向けられる敷居の高さが目立ってきている今日において、こうした作品は気を抜いて楽しめる。
とはいえ浦沢氏による作画が引き込みのフックとして機能しているのは間違いないですし、”らしさ”の残るスリリングさとミステリアスさの混在する、物語、構成には不思議な魅力も詰まっている。
ここまで纏まりよく、日本とフランス、人物達の関係性を描くというのは本当に凄い。
コマ割りのスリリングさ、クロージングの巧みさで、絶妙なテンポ感を出すのも浦沢氏ならでは。
別にすべての作品がそういうわけでないのに、SF味があるような雰囲気というのはどこから漂うのでしょうか。
本作も現代を描いているような趣はありつつも、どこかしら近未来のような印象を受けるところもある。
画のタッチや物語の印象からそうした雰囲気を感じるのでしょうが、その辺も好きなんですよね。
時折無性に欲するような。
物語のたたみ方とユーモアのバランスも丁度いいんですよ。
特にユーモアの部分に関してはこれといっておかしなことを言っているわけではなく、物語が脇道にそれるような人物、演出から、そうしたちょっとした緩さを引き出すような巧妙さ。
張り詰めたストーリーでも弛緩させるような語り口。
かすみという女の子をメインに据えたのもバランスが取れてるんですよね。
大人びていて、父親以上にしっかりしている。物語の仲裁に入るような位置付けと存在感がハマり役。物語が少しソリッドになりそうなところに対して巧みに効いてくるんですよね。
しかも今にしてみると本作で登場するダンカン。確実にトランプ大統領のそれでして、今まさに再選した世界線で見ると見え方が変わってくる。
皮肉でもあり、ムーブメントの違いを感じ取れるような世相の雰囲気。
漫画だからできる表現なのかなと思うとそれもまた一興。
赤塚不二夫のイヤミを据えているブラックジョークさ込みで良きまとまりに着地しているのではないでしょうか。
ルーブルからここまでのことを着想し、漫画として良き塩梅で描き切る。
短編かつ浦沢氏の手腕ならではじゃないでしょうか
では。
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