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人間の曖昧さに迫る『アンダーカレント』がもたらす余韻の波紋

『アンダーカレント』

ポスター画像


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「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉監督が真木よう子と初タッグを組み、フランスを中心に海外でも人気を誇る豊田徹也の長編コミック「アンダーカレント」を実写映画化したヒューマンドラマ。

かなえは家業の銭湯を継ぎ、夫・悟とともに幸せな日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が銭湯組合の紹介を通じて現れ、ある手違いから住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活の中で穏やかな日常を取り戻していくが……。

謎の男・堀を井浦新、探偵・山崎をリリー・フランキー、失踪した夫・悟を永山瑛太が演じる。「愛がなんだ」の澤井香織が今泉監督とともに脚本を手がけた。

143分というわりと長尺な作品ながら、全くその長さを感じさせない映像力。

特に何が起きるでもないにもかかわらず観れてしまうというのが今泉監督作品の不思議な魅力だと思う。

日常のありふれた、でも少し変わった情景を描き、その中での会話劇の面白さ、気付き、普段何気なく感じていることを拡張し提示してくれる。

本作は劇中で山崎が述べていた「人をわかるってどういうことですか」ということに全てが集約していると思っていて、考えてみれば家族や友人、職場の同僚や知人など、どれだけ近かろうが遠かろうが、何をもってどこまでその人を理解していると言えるのだろうか。

長く時を共にするとわかっている気になるということが当然のようにあって、でも実のところは一部しかわかっていない。

自分自身もそうで、表面に見えていること、相手が思っている自分などというものに関してもそう。酒の席やらで話を聞くと、全く違って受け取られていることも多々ある。

その人の性格により出やすい人、出にくい人がいることもあり、それにより理解の解像度に違いは出るのだろうけど、やっぱり多くの場合においてズレている気がする。

それです。

この映画で表現されていると思うことは。

モヤモヤを可視化するような、一方で分からないままに流れていくようなシナリオが心地良い温度感で纏まっている。

オープニングで出てくるアンダーカレントという言葉の意味。

1.発言の根底にある抑えられた感情
a subdued emotional quality underlying an utterance; implicit meaning.

発言の根底にある抑えられた感情。暗黙の意味。

言い換え
undertone


2.底流
a current below the surface of a fluid.

液体の表面下の流れ。

表面上で見えているもの、流れ、表情、それらとは全く異なる様相の下層での滞留物。

人の感情や営みにもそれらは紛れも無く存在しているわけで、思っていること、行っていること、言っていること、それらになぜ違いが生じるのだろうか。

素直になる、言ってしまえば簡単なことだけど、そんなに簡単なことじゃない。

劇中でもその難しさにおけるところが良く表現されていて、ありふれた日常における癒着した感情が微細に表現されている。

演者の表情や仕草による表現がそうした複雑さと檻を良く表しており、見るだけで伝わってくるようなやるせなさを感じる。

そうした緩衝材として、リリーフランキー演じる山崎の役割も素晴らしく、先に書いた確信めいたことをポロっと述べるところにハッとさせられる。

これもまた同様に山崎の人柄からは想像出来ないところでもあり、だからこそ人の真意はわからないということも諭してくれる。

さとるが出て行った経緯に関しても嘘による嘘が真実を包み隠し、最終的な真相すらもその実がわからなくなっているという作り。これもまた作品自体の内包する構造を重層的に見せることにつながり、良き決着だったなと。

ラストのシークエンスもそう。

堀との関係性が明らかになり、その後が描かれるわけですが、多くを語らず、犬の散歩のあの画を見せてくれることで関係性を推し量ることが出来る。

あくまでも起きている出来事としての事柄は事実として存在するけど、その真意、背景のようなものはファジーなまま存在している。

わかっているようでわからない、その曖昧な部分が随所に散りばめられている波紋のような余韻が心地良い作品でした。

映像的な穏やかで静止画的ルックも作品のテイストと良く調和してましたし、日常のそれっぽさが伝わる良き画作り。

作品内の事件パートはともするともっと劇的に映ってしまいそうなところでさえ、今泉監督らしい、静的な描写に収束する平坦な展開も良きでした。

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