『夢中さ君に』
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異性とか同性とかそういうことを抜きにしたような清々しくも淡い感情の機微が際立つ作品。
タイトルにもあるような「夢中さ君に」というのはその通りだなと思うわけで、連作のような人間関係が続く中、独立した人間模様の「誰かが誰かにふと夢中になる」そんな瞬間を集めた短編集。
現代的な画のタッチに00年代を彷彿とさせるようなタッチを織り交ぜ、そこになんとも不可思議なホラー味やノスタルジックさを醸し出す。
このバランス感覚がさすがですよね。
人物たちの表現に関しても同様のことが言え、今なのに今じゃない感がひしひしと伝わってくる。
あの頃の自分と重なるところがあり、でも、確実に以前には無かったような、現代ならではの感覚も突きつけてくる。
それらがいやらしさ抜きで、爽やかに、コミカルに伝わってくる感覚が何故だか気持ちいい。
ノスタルジー的な部分に伊藤潤二的な要素をしれっとぶち込んでくるところとか、展開の中に自然的に織り込むところなどもシュールで面白いんですよね。
交わされる会話のやりとりもそうで、独特なテンポがあり、嫌味のない一風変わった空気感を通じて展開されていく。そんな奇妙なやり取りの集合体。
全体を通して、学園生活にある断片を集めた集積であることは間違いないのですが、そのどれもがしっかりと独立もしており、「人間模様って色々あるよね」と問われているかのよう。
それを学校という枠組み、それこそ社会に出てからのしがらみを抜きにした純粋さ込みでにじみ出てくるのが良いんですよ。
学生時代はそれはそれで狭いコミュニティゆえの悩みや葛藤、なぜあんなことでこんなに悩んでいたのか、恐れていたのかというものもあったかと思うんです。
それを否定するでもなく、優しく包みこんでくれる感じもあり、それら全部ひっくるめてクスッと笑えるほんわかさに終着させてくれる。
表情の描き方もその辺に寄与していると思っていて、とりわけ笑顔の描き方、タイミング、クローズが効果的なんですよ。
シュールさを掻き立てられたり、柔和な気持ちになれたり、クスッと笑わせてくれたり。
読んでいるこちらとして、絶妙な距離感で力の抜けた読書体験にしてくれる。
弛緩のコントラストが登場人物の表情一つで描けるというのも素晴らしいですよね。コマの割り方も相まってなんだかほっこりする。
和山やまさんの独特なエッセンスが加わることで予想だにしない方向に連れて行ってくれ、ゆるくも心和む気持ちにさせてくれる。
ホラーmeetsノスタルジーwith過去と現代。
では。