Blcrackreverse

Diggin LIFE 掘って掘って掘りまくれ!

Blcrackreverse

『美しい星』――三島由紀夫が描くSFと純文学の絶妙な融合

『美しい星』

純文学とは荒唐無稽とすら思われる題材を扱い、そこにすら三島だからこその文学性を付与する力量が素晴らしい。

そもそも硬質で純然たる文学作品を書こうと思う人物がある種の対局的な存在にあるようなファンタジーやSF作品を描くというのはどういったことから想像するのか。

読んで納得な部分として、あくまでも表層上の扱いはSF的なるものでありつつ、その実、至って現実的で、根源的な発想から着想しているのかということが垣間見える。

文章の構成自体も特段難しくなく、シンプルに物語を追っても楽しめる側面があり、そのワクワクさせられるような展開から最後までテンポ良く転がっていくのが心地良い。

そんな中、SF作ではあまり見ない構成になっているなと思わされるところにこそ三島の凄さを感じるわけですが、まずいつでもお馴染みのワードセンスや状況描写の美しさが存在している。

これはどの作品にも必ず存在するので言うまでも無いんですが、SFという文脈の中に落とし込まれてもやはり心地良いくらいに流麗で魅力的。

まるで目の前でその情景を手に取るほどの想像をさせ、思い描かせてくれる。

この描写力の美しさがとにかく好きなんですよね。

それからSFにありがちな設定の深堀りや事実認識における確認作業のようなことがほとんど行われない。

あくまでもそれらを認識していることはわかりつつ、そこにフォーカスせずにファジーにすることでファンタジー的な要素を付帯しているというのも現実離れした設定と相性が良い。

それらを見事なバランスで融合させ、あくまでも現実と地続きの問題と根源的な人間性を接合するというのが面白いんですよね。

”人間とは”ということをあくまでも俯瞰した別の人種からの視点で描くことによって見えてくる客観性、そこに「なぜ?」という疑問を挟ませず、その核心的事実にのみ注視させる。

中盤後半くらいに出てくる重一郎と羽黒の人間に関する弁論のシーンなど、ただの会話シーンにもかかわらず、こちらの思考も巻き込み逐次進んでいく様は手に圧巻でした。

論を舌するというのが高度な領域で行われるだけでこうも高揚するのかと。

三島の映画などを見てもその様相はすぐにわかるわけですが、それを文章でもここまで見事に行ってしまうというのはさすがとしか言いようがない。

blcrackreverse.com

話の結語に関しても潔く、帰結自体の画を描きつつ、それまでの問いに対してはあくまでも解釈の余白を残しているような部分が良かったですね。

三島とSF、純文学とSF、相性の良さ如何に拠るところなく、一読してみると新しい発見があるのは間違いないです。

では。


 

11星は夜空を豹の
16こうした欅の巨樹の冬の
30核実験停止も軍縮
57事物は意味を失って
81彼が芸術家でなかったら
106偶然とは
181われわれが円盤を
246僕には今まで何もかも
265人間が自分の幸福を保障
276神への関心のおかげで
282動物的本能が嘉納する
284人間の欲望はすべて
287人間を統治するのは簡単
294気まぐれこそ人間が
297地球なる一惑星に住める
299女は肉体の中に時間の成熟
304かつてあれほど人間の心を
330暁子の顔は
349生きてゆく人間たちの