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戊辰戦争の闇を暴く!『十一人の賊軍』が問いかける義

『十一人の賊軍』

ポスター画像


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江戸幕府から明治政府へと政権が移りかわる中で起こった戊辰戦争を背景に、11人の罪人たちが藩の命令により決死の任に就く姿を描いた時代劇アクション。「日本侠客伝」「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる名脚本家の笠原和夫が残した幻のプロットを、「孤狼の血」「碁盤斬り」の白石和彌が監督、山田孝之と仲野太賀が主演を務めて映画化した。

1868年、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜を擁する旧幕府軍と、薩摩藩長州藩を中心とする新政府軍(官軍)の間で争われた戊辰戦争。そのさなか、新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟に加わっていた新発田藩(現在の新潟県新発田市)で繰り広げられた、同盟への裏切りのエピソードをもとに、捕らえられていた11人の罪人が、新発田藩の命運を握る、ある砦を守る任に就き、壮絶な戦いに身を投じる姿を描く。

山田孝之が、妻を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害して罪人となり、砦を守り抜けば無罪放免の条件で決死隊として戦場に駆り出される駕籠かき人足の政(まさ)を演じ、仲野太賀は、新発田の地を守るため罪人たちと共に戦場に赴く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎役を務める。彼らとともに決死隊となる罪人たちを尾上右近鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本山力が演じ、そのほかにも野村周平音尾琢真玉木宏阿部サダヲら豪華キャストが共演。

白石監督らしい画作り。

仁義なき戦い』の生みの親である笠原和夫さんの原案ということもあり、集団抗争劇の様相になるとは思っていたんですが、白石監督が味付けするとこういう感じになるのかと。

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画のルックに現代的な部分が宿るというのは意図してなのか、仕方がないのかはさておき、『孤狼の血』で見せたような禍々しさ、キャラ立ちの部分は如何なく発揮されておりました。

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戊辰戦争をメインに、少し内容的に複雑さがある部分もあってか、何も知らずに見るとどういう設定なのかがわかりにくそうに感じたであろう題材を扱っていたんですが、それも杞憂に終わるという抜群の演出。

歴史に詳しくなくともわかるような配慮、日本地図を使用しての戦況の推移をスムーズに見せるところやナレーションを入れ手短に用を語るところなどがあり、予想以上にスムーズに入れましたね。

なので全然歴史に詳しくなくてもオッケーな作りになっています。

その意味でいうとキャラクターの紹介も非常にわかりやすかった。

序盤、全然わからぬままに防戦地帯へ向かうことになるわけですが、その道中での尾上 右近演じる赤丹が非常に手際よく、かつ自然に全員の罪状などを紹介してくれる。

さらにその後の行動、言動などから、どういった人物で、どういった思考なのかということも含め、すんなりと理解できるような作りになっているんですよ。

黒澤明監督作品『七人の侍』なんかもそうですけど、こうした紹介の妙というのはなるべく手際良く、自然な方が良いですからね。

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そして本作で一番驚いたのが”音”ですよ。

銃火器であったり爆発、刀だったりといった要素の爆音っぷりが凄まじい。ただでさえ映像的な激しさがあるところにあの音量ですから。

そこに恐怖が渦巻き、混沌とした世界に放り込まれる。

ああいったシーンを見ると人の儚さだったり、死というものの見方を刺激されますよね。

特に思うのが、死に対する心構えのところ。

準備ができ、満足のいく人生だったと考えられるほど甘くもなく、むしろ唐突にそれが訪れるのが当時における必然の理。

何かを積み上げようとか、未来にどうこうとか以前に”常日頃から後悔のない日常を過ごす”ということの重要さを問われているわけですよ。

ストーリー的な部分からもそうしたことは感じられるわけで、権力者が常に正しいわけでは無いというのも重要な視座ですよね。

大義を持って小義を捨つ。

それはそうかもしれないけど、その小義の世界で生きている大多数の人間に取ってみれば本当の意味での義を見失わされる。

仲野太賀演じる兵士郎を見ているとその感がひしひしと伝わってきて、信じるもの、信じてきたもの、信念を蔑ろにされ、それすらも伝わらずに死んでしまうかもしれないような状況にいる。

そう考えると、虚しいですよ。

誰かがわかってくれるとか、後世に称えられるとか、正直そんなの本人にとって、死んでしまえば何もならないわけで、その惨たらしさ、だからこその今を生きなければいけない意味みたいなものを感じてしまうわけです。

話は逸れましたが、とにかく”音”が絶好調。なので映画館マスト案件なわけです。

それから演者のキャスティングも素晴らしかった。

もう全員が全員、この人しかいないんじゃないかと思ってしまうほどハマり役でした。

特に鞘師里保さんは大抜擢でしたね。

当時の世相を考えるとあそこまで肝の据わった女性がいたのはと思う部分もありつつ、今だからこそのあの人物の配置、他の女性の使い方も含め、フラットで気概のあるやつが結局は格好良いと見せるあの描き方は好感が持てました。

個人的には仲野太賀さんと本山さんが印象的で、仲野太賀さんは以前から好きでしたし、あの殺陣を見せられ、あの佇まい、胆力のある表情や仕草、男気を見せられるともうたまらんわけですよ。

特に終盤での殺陣は圧巻ですよ。

ここだけでも何度も観たいくらい。

あと表情から出る凄味というのも仲野さんならではで、あの喜怒哀楽、情緒的な内面を想像させるに足る顔面力。

悔しさややるせなさにおけるその表情たるや、言葉無くとも伝わってくる鬼気たるものを感じました。

と同時に時代劇の見ものに”殺陣”がある、というのは楽しみにしているところではあるんですが、仲野さんは本作を撮る前は殺陣に関してほぼ未経験だったとのこと。

「甘くみていた」と本人も語っていたようですが、そこから猛烈な鍛錬をし、あそこまでの気迫、立ち回りを習得するというのも驚きしか無い。

その殺陣において抜群の存在感だったのが本山さんなわけで、この存在感が圧倒的なんですよ。

序盤からちょいちょいある戦闘シーンでの身の振りからして、「なんなんだ、この人の過去は」と思っていたんですが、これまた終盤で明かされて納得の立ち回り。

その時の気迫、熟練の風貌と言ったら。

これは是非観て堪能してほしいところ。

それくらいに素晴らしい。

配給が東映ということもありそこでの人材育成として以前はかなりの力が入っていたのが殺陣。その時代を担ってきた本山さんならではの圧倒的存在感というのはやはり唯一無二ですよ。

構え、安定感、太刀の速さからして、瞬時にわかるくらいに異質ですから。

とまあ白石監督らしい味付けのある時代劇。

指は飛ぶし、血が吹き出る、惨殺されて、結果も全然ハッピーじゃない。

でも、容赦のない作品というのは、その容赦無さを自身に直接突きつけられているようでもあり、甘くない人生というのを真に感じさせてくれるわけです。

タイトルにある十一人の賊軍、途中まで十人じゃないのかと思ってみていたわけですが、最後には納得の十一人。

ただ、誰が本当の意味で賊軍なのかということも重要な気がします。

では。