『水は海に向かって流れる』
以前読んで以来、わりとほとんどの作品を読んでいると思うんですが、本作が一番響いたかなと。
日常系であり、あり触れた恋愛系。と思いきや設定や状況などが一筋縄にはいかないところも田島列島さんっぽい。
現代的な価値観を織り交ぜつつ、そこだけにフォーカスしない過去との親和性。古き良きと新しきを知るをマッシュアップしたような展開も心地良く、時代は変わっても普遍的なものがあるということを知らせてくれます。
タイトルにある『水は海に向かって流れる』というのはどういうことなんだろうと思っていたんですが、結局”当たり前に自然の摂理は経過する”ということなんじゃないかと。
自分自身サーフィンをやりだしてから”水”や”海”というものについて頻繁に触れるようになり、それらに対しての認識もかなり変わってきたんですよね。
生きているうえで人は意識的に何かを行い、考えているようでいて、その実自然の因果については、ほぼほぼ無抵抗ということって間々あると思うんですよね。
考えれば当たり前なんですが、それを感覚的に自覚できるかというところがあると思っていて、抗えなさや脅威のような側面って絶対的にあると思うんですよ。
かと思えば悠々とした穏やかさや柔軟性、優雅さすらも持ち合わせ柔和に包み込んでくれることもある。
この相反する側面を対極的に持ち合わせているのが自然というものなのかと。
それをモチーフとして描きつつ、そうした部分を人生や恋愛に準えて描いているのが本作、『水は海に向かって流れる』という作品。
川は考えずとも海に流れ込み、その過程で良くも悪くも揉まれていく。
人はその水の分子的な存在であって、道中、様々な人と会い、別れ、色々なことを考え悩み、それでも月日は流れていく。これって分子的な結合や分裂とも似ていて、ようは有機的にその形を常に変化させていくようでもある。
そうした水が流れ込む様を描いているような心地良さもあり、感傷的な部分を刺激してくるんですよね。
ほのぼのしているようで、メリハリや骨格もしっかりしていますし、何よりも登場人物たちの豊かさに溢れている。
会話におけるワードセンス、言い回しの豊かさとコマ割りの絶妙さも相まって、とにかく読む者の琴線に触れてくるん。
特に響いたのが終盤で榊さんが一人で心情を吐露する場面での「自由をあげたいと思った」という場面。
恋愛感情なのか、相手を思う気持ちなのか、それまでの積みあがってきたきた諸々を踏まえ、真に人を思う時にふと出てくる考えにこんな威力があるとは。
「自由になってほしい」とか「自由でいてほしい」とかでもなく、「自由をあげたいと思う」って。
「自由をあげたい」でもダメなんですよ。そう思うという自分の感情を含めての最高さ。
そんな感情を抱いてみたいなと思いつつ、そうした表現を多分に盛り込んでくる作者のセンス。
他のシーンでも色々とグッとくる場面は多いので興味ある方は是非。
ちなみに映画化もされており、そちらも評判は良かったようなんですがまずは原作から読みたかったので。
機会があれば映画も観てみたいところですね。
では。