『ナミビアの砂漠』
初監督作「あみこ」でベルリン国際映画祭フォーラム部門に史上最年少で招待されるなど高く評価された山中瑶子が監督・脚本を手がけ、「あんのこと」の河合優実を主演に迎えて撮りあげた青春ドラマ。現代日本の若者たちの恋愛や人生を鋭い視点で描き、2024年・第77回カンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞した。
21歳のカナにとって将来について考えるのはあまりにも退屈で、自分が人生に何を求めているのかさえわからない。何に対しても情熱を持てず、恋愛ですらただの暇つぶしに過ぎなかった。同棲している恋人ホンダは家賃を払ったり料理を作ったりして彼女を喜ばせようとするが、カナは自信家のクリエイター、ハヤシとの関係を深めていくうちに、ホンダの存在を重荷に感じるようになる。
「猿楽町で会いましょう」「サマーフィルムにのって」の金子大地がハヤシ、「せかいのおきく」「プロミスト・ランド」の寛一郎がホンダを演じ、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁が共演。
兎にも角にも河合優実。
冒頭のショットからどことなく惹きつけられるものを感じつつ、気付けば馴染ある町田の風景ではないですか。
と、そんなことを感じつつ、河合優実演じる”カナ”という主人公の人となりがわかるような映像が流麗に繋がれていく。
これがなんか気持ちいいんですよね。
このなんか気持ち良いっていう感覚が度々訪れる本作なんですが、冒頭からそうしたことを感じ取れる。
その後のカフェでのシーンも面白かったですね。音で誘導されていく導線と意識。
誘導されているのは知りつつも、カナという人物がどういう人で、世界をどう捉えているかということが表情と音により提示されていく。
この辺の表情、仕草、ちょっとした部分の表現が河合優実さんは非常に良いですよね。なんならちょいちょい怖いくらいに思える狂気性も憑依したように伝わってくる。
その後もまあ淡々とした日常が進んでいくわけですが、カットのちょっとした唐突さや仕掛けが地味に後々効いてくるんですよね。
ソリッドなドキドキ感を助長させるというか、ポップなのに潜在的なダークさを感じるというか。
その意味でいうと要所要所で入ってくる不自然なクローズアップもかなり効果的に機能していたんじゃないでしょうか。
この寄りでドキドキするというのは初めてで、注意を引き付けるという意味以上に、不安を掻き立てられ、なんだか無性に落ち着かなくなる感覚を受ける。
カナの人柄がそうさせる部分もあると思うんですが、ストーリーテリング上の運びにもそうした不穏さが漂っている気もして、故にサスペンス地味た緊張感も合わせて伝わってくる。
あれは新鮮でしたね。
あとはゲームで勝った時に生じるようなハッピー演出も不釣り合いで癖になる。
カナが揚々としている背景に流れるのはテクノ調の変則的なサウンド。これがまた耳に残るし、奇妙でキュート。
こうした画作りの実験性みたいなところもちょいちょい面白いところ。
そして肝心のストーリーですけど、正直ラストの「わからない」ということに全て詰まってるんじゃないですかね。
作中、映画自体の皮肉も出てきますが、映画や人、何なら殆どの創作物も、わかろうとしたら、勝手な解釈をしたりってこと自体が予想であって確信じゃないと思うんですよ。
ようはわかった気になって色々な物事を認識してるけど、実のところ本当にわかることなんてごく僅か。
言ってしまえばこの作品で本当にわかったことなんてハンバーグの件だけなわけでして。
それを知るためのただの観察記録。VLOGみたいなものですよね、この映画自体が。それを長尺で撮った定点観測のダイジェスト。
そう考えると、わからないのも理解は出来るわけですよ。
だって何かを理解するために撮っているというよりは、事実を記録してるだけですから。
それを示すシグナルとして、カナが見ていたナミビア砂漠の定点カメラ映像、急にカナ達の日常がスマホに映し出される入れ子構造、映画を見てる鑑賞者、カナを見ている彼氏。
全てただ、観察しているだけなんですよ。色々と思うところや思考を巡らせながらも。
人生って意味があるとかないとか、考えたりもしますけど、考えようと考えまいと月日は経ち、物事は変化していく。ただそれだけなんですよね。
そうなんですが、本作はその中で河合優実という役者が味付けを施すことで不思議と見れてしまうんですよ。面白いくらい集中出来てしまう。
発言もそうで、個人的に「これからは生存がテーマです」とか「拾え」の件は印象的でした。
「拾え」のシーンなどは、「こういうプレーかよ」と思うくらいにクセになりますし。まぁ実際彼女に言われたら最悪の気持ちですけどね。
唐田えりかさんとか寛一朗さんの使い方なんかもスパイスとして効いてましたよね。
役柄とシチュエーション、シーンなんかが有機的に絡み合っていて。
最高なんだけど頻繁には観たくない。そんな劇薬映画だったのは間違いないですが、どんな方でも一見の価値はある作品じゃないでしょうか。
では。