『狩人の夜』
ある狂信者に命をつけ狙われる幼い兄妹の恐怖を描くサスペンス映画。
製作はポール・グレゴリー、監督はチャールズ・ロートン。
デイヴィス・グラブの原作を基に、脚本はジェームズ・エイジー、撮影はスタンリー・コルデス、音楽はウォルター・シューマンが担当。出演はロバート・ミッチャム、リリアン・ギッシュほか。
以前なにかの雑誌で目にしてからずっと脳裏に焼き付いていたのが本作『狩人の夜』。
当時の単純な印象はカッコ良く、なぜだか惹かれる部分があったんですよね。それで観てみたというのが最初のきっかけ。
ロバート・ミッチャム演じる伝道師、パウエルの出で立ちと指に入れた刺青のカッコ良さに惹かれまくった私でしたが、やはり今観てもカッコ良いと思ってしまう。
ダークヒーローとも違う、何故か惹かれる禍々しさ。
作中で女の人がパウエルに惹かれていくように、ある種の狂気めいたものを持っている人間というのは独特な魅力を放っているものなのでしょうか。
モノクロの映像も美しく、どこか寓話的にも見える部分から、行われている狂行すらも甘美的な映像に見えてしまう。
横スクロールするように物や人物たちがスライドしていく様子も影絵的な面白さがあって、そうした見せ方からもおとぎ話的な要素を感じさせますよね。
音楽の合わせなんかもそうした要素の一助になっていて、華やかさと繊細さを合わせたような美しい旋律。これも映画の雰囲気との相性がバッチリなんですよね。
そして陰影の使い方も上手い。
神々しい明かりに見える構図のとり方、透明感のある白さ、影すら美しく見せるというのもひたすらに映画内の凶行と対比されていくことで、より双方の輝きが増していくという。
雪の見え方や、水中の見え方なんかも絶妙なバランスになっており、光の反射が美しかった。
モノクロ故のトーンの豊かさを感じさせられました。
そうした中でもパウエルの黒い服装は際立ちましたね。作品内での浮いた存在、シミのように見える黒さの禍々しさもあり、そうした映像的な部分からもパウエルの存在感が浮き出て見えてくる。
あの黒い正装スタイルがカッコ良いんですよ。ハットの絶妙な合わせだったり、不穏めいた紳士的要素も満載で。
あとこの刺青ですよ。
指に入れたLOVEとHATEの文字。
作中では愛が憎しみに勝つという話が出てくる中、行われるのは狂気のみ。
愛が憎しみを生み、その憎しみに支配されたのが彼なんじゃないかと思うと、幼少期からの成長過程も一層気になってくる。
そこをあえて全く描かないというのも良いんですよね。描かれないからこそ想像によりバックボーンを補完し想像させることでより理解できない怖さが増幅していくという。
怖さとおとぎ話的な混在も面白いんですよね。
寓話的であるのに現実的な恐怖が確実に横たわっており、それをパウエルが演技で見事に体現しているというのも見どころ。
子どもたちを追いかけるシーンというのが普通に怖いんですよ。
徐々に追い詰められていくような感じ。ジリジリと確実に迫ってきており、でも焦らずじっくり追い詰める。
画作り自体にも力があって、それは確実にロバート・ミッチャムの演技力が成せる狂人感なんだろうなと。
絶対にあんなのに追われたくないですから。
ただ、エッジの効いた人には何故か惹かれてしまう。
ミステリアスが今昔変わらず魅力的に映るということ感じるとともに、美しくもカッコ良い映像に酔いしれました。
対比的な存在として、クーバーも良かったですよね。
カッコ良い女性像、芯を持ち、そうした魅力に惑わされない確たるものをもっていればこその立ち振舞が見事に存在感にも現れていて。
女性と銃という相反するモチーフというのもそれ故の強さを抱かされ、カッコ良かった。
ラストの展開なんかは至って寓話的で、クリスマスの余韻を残した良き幕引きだったのも印象的でした。
寒くなったらまた観たい作品ですね。
では。