「インディアン・ランナー」「クロッシング・ガード」のショーン・ペン監督が実話に基づくジョン・クラカワーのノンフィクション「荒野へ」を映画化。
恵まれた環境で育ちながらも、人生に不満を抱えていた青年がアメリカを横断。その果てにたどり着いたアラスカの荒野で死ぬまでの心の軌跡を描く。
主演は「ロード・オブ・ドッグタウン」「スピード・レーサー」のエミール・ハーシュ。共演にマーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、キャサリン・キーナー、ビンス・ボーンら。
ショーン・ペンって監督としても俳優としても本当に素晴らしいなと思うわけですけど、本作イントゥ・ザ・ワイルドも改めて素晴らしかった。
そもそもがノンフィクション作品の映画化というわけなんですが、原作自体の物語性が非常に豊かなんですよね。
当然と言えば当然なんですが、アメリカ横断の末、アラスカという荒野を目指した若者が亡くなるまでを描くって、そりゃ壮大にもなりますよ。
その目的自体、若者ならではの部分もありつつ、なんなら永遠のテーマと言っても良いくらいの難題なわけじゃないですか。
言い換えると”結局人生ってなんなのか”ということですし。
これって人生に向き合えば向き合うほど、何かを追求すればするほど募る考えだと思っていて。ようするに目先に見えている目的のその向こう側にあるはずの最終的な目的地はどこなのかということだと思うんですよ。
生きている中で生じる些細な問題や、ちょっとした疑問、目的意識や達成感、幸福感、閉塞感、希望や絶望、人生の過程においては色々な事柄に溢れているわけです。
でも突き詰めてか考えていくと、それらは最終的に何の目的に向かっているのか。
その究極系が”人生について”だと思うんです。
最終的に死ぬとき、何を思えたら「幸せだった」、「後悔無い人生だった」といえるんでしょうね。
ある意味でその答えの一端を示してくれている気もしますし、そこから別の何かが見える気もする。そんな鑑賞後にも色々と考えさせられる作品でした。
映画自体の構成も心情を揺さぶるものになっていて、特にカットバックが効果的に機能しているんなという印象でした。
死ぬ前の数十日と旅の始まりからのカットバック。
辛辣さとそれまでの経験が折り重なることで、より重層的でエモーショナルな演出になっている。
壮大な風景も見ものですよね。
雄大な地においてそれこそ人間がどれだけちっぽけな生き物なのかということを知らされますし、クリス自体もどんどんそれに気付いていく演出が豊富に仕掛けられている。
風景を見ているだけでも映画自体の物語性とリンクし、抽象的に色々と示唆してくれている要素を感じてきます。
中でも本作の興味深いところがノンフィクションであるということ。
それをどう切り取り見せるかの部分においての調整が絶妙なんですよ。
物語自体の興味深さを損なうことなく、矛盾ともいえるような真実味を切り取らず表現する。
一番感じるのがクリスが抱いている感覚と起きている現実の矛盾だと思うんですよ。
序盤の方でソローの名言「愛よりも、カネよりも、名声よりも、われに真実を与えよ。」というものが出てきており、クリスもそういった思想を基に旅に出たんだと思うんです。
でも、実際にその道中で見せられる経験というのはそういった机上の空論でなく、人間味を持った”関係性”の部分が多いという事実。
人って誰しもが理想を掲げ、幻想を抱くものだと思いますが、実人生においての重要なことってもっとシンプルなことなのかなと思えてくるんです。
色々な人と関り、良いことも悪いことも経験し共有する。それ自体が生きるということでそれ以上でも以下でもない。
結局クリス自身も文明社会を非難し、真理を追究しようとしたものの、生きるためにお金も稼がなければいけないし、移動の為に電車や車という文明の利器にも頼らないといけない。自力で生きていくことを望みながらも鉄砲という人工的な道具に頼り、破棄されていたとはいえバスという構造物の中で生活する。
他にも色々なものに頼りながら、結局のところ自力だけで出来ていることなんて本当にごくわずかなんですよ。
その対比としての人々との関わりを丁寧に描くことで、そこにこそ幸せであったり人生であったりの意味を感じてしまう無意識の導線が引かれている構成。
ショーン・ペン恐るべし。
道中での人の助けだったり、道具の助けだったりを得なければもはや生きていくことすらままならないということを、チャプターのような雰囲気で切り取り、積み重ねていく。
クリスも終盤では”alone”と日記に書き記していたように、孤独を感じ、後悔していたのかなと思わされますよ。
孤独も選択できる状態でのそれがいいわけであって、孤独しかない状態でのそれは虚しさしか残らないと思うんです。
最後にクリスの書き記した内容っていうのは震えましたね。
「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合った時だ」っていう。
関係性無くして、人は成り立たないんですよ、極論として。
そんな人生においての気付きを、ノンフィクションだからこそ強烈に、それでいてバランスの選択を間違わなかったショーン・ペン監督の手腕があったからこそなのかなと。
あと主演のエミール・ハーシュも良かったですね。
「ロード・オブ・ドッグタウン」以来好きな俳優さんなんですが、ホントに好き。
演技にリアリティがあるというか、セリフや振る舞いに嘘を感じないんですよね。
これって当たり前かもしれないんですが、役柄によっては意外に難しいと思っていて、それを自然と、そこにいるような存在感を持って演じるって素晴らしいよなと。
楽曲のエディ・ヴェダーも良かったですよね。
パールジャムとはまた違うカントリーテイストの残る雄大な風景と相性の良いサウンド。
初めて観た時にこの映画でこのサントラ借りたななんてことも思い出しつつ、改めて良い声だなと。
とにかく人生に悩んだ時や迷った時、折に触れて観返したい作品だなと改めて思いましたね。
そういえば持っていながら未読だった原作もあるので、折をみて読んでみようかなと思ったので、そちらも気になる方は是非。
ちなみに本作は何故かサブスクには無いのでレンタルもしくは購入しと観るしかないので悪しからず。
では。