『プリズナーズ』
2010年に発表した「灼熱の魂」が第83回アカデミー外国語映画賞にノミネートされ、世界的にも注目を集めたカナダ人監督ドゥニ・ビルヌーブのハリウッドデビュー作。
娘を取り戻すため法をも犯す決意を固めた父親の姿を描いたサスペンススリラー。家族で幸せなひと時を過ごすはずの感謝祭の日、平穏な田舎町でひとりの少女が失踪する。手がかりは少なく、警察の捜査も進展しないなか、少女の父親は証拠不十分で釈放された第一容疑者の証言から、彼が誘拐犯だと確信。自らの手で娘を助け出すため、一線を超える決意をする。
父親役にヒュー・ジャックマン、事件を担当する警官役でジェイク・ギレンホールが主演。
やはり思っていたとおりにはいかない。
タイトルを見た時、”囚人たち”というところからどういったことになっていくのかと考えながらの鑑賞だったんですが、まさにその通りの展開。
これはその辺に注意して観てもらえばわかることではあるんですが、とにかく秀逸な放題だなと。
町山さんの解説を聞いていて知ったんですが、この作品、海外では”ブラックリスト”と呼ばれる脚本不可能とされている作品リストに入っていたものみたいですね。
確かに脚本が複雑に入り組んでいますし、映像化するのは難しそうだなといった内容。
でも、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督ならやれるというのも納得がいきますし、実際、これも良くまとまっていますからね。
上映時間も153分と長い作品ながら、事件を追っていくという道中を共にしつつ、さらなる謎に巻き込まれていく構成もあってか、全く苦にならない作りでした。
とにかく先が読めそうで読めないんですよ。
故に映像化不可能と言われていたんだと思いますけどね。
撮影もロジャー・ディーキンスということもあって、陰影が美しく、いつまでも観ていられるような映像群なんですよね。
雪景色であったりもそうですけど、個人的には乾いたような質感と空気感で撮る、建物や町並みの荘厳さが好きでした。
ああいう、アメリカの田舎町っぽい雰囲気や集合していない町並みって好きなんですよね。
ジェイク・ギレンホール演じるロキが乗っていた車も好みで、ブラックボディのサルーンタイプ、ホイールのシルバーとブラックのバランスもなんか良い。
基本的に気になる車が出てくる映画はそれだけで見入ってしまうので。
この車、実際に普通の警察車両として使われているようで、これをブラックにペイントしたものを使用していたんですね。
この辺もロキの人間性も出ていて悪くない。
そんな人間というものにフォーカスしてみた時に、この作品の醍醐味があると思うんですが、キャスト全員の演技力が素晴らしい。
それぞれの過去やパーソナリティを感じさせるような役作りであったり、バックボーン、精神性をも感じさせる佇まい。
これもドゥニ監督の十八番である”支配性”を感じさせる構造に収斂していますし、各人の行動原理って結局は何かに準拠していると考えると、ある意味で恐ろしくもあり、やるせなくもあり。
実社会でもそうでしょうけど、誰もが何かしらの考えで動き、苛立ち、共感し、納得したり反発したりしていく。
唯一の正解なんてあるはず無いわけなのに、唯一を求めてしまうやるせなさ。
それが絶妙な均衡で保たれているうちはいいですが、本作のような均衡を破られる事態に遭遇した時、歯車がズレ、いずれは崩壊していく怖さ。
そう考えると、人間ってホントなんなんでしょうね。この謎は一生解けない気がします。
いずれにせよ、登場人物誰かしらへの共感や近しい考えの人物が出てくるかと思うので、その視点で見るもよし、別の視点での考え方を知るもよし。
人間模様と裏に潜むわからなさを感じながら観ていくだけでも楽しいことでしょう。
それと同時にこのお話に内包されている謎というのも一生解けない気がするものが多く、終盤で子供がケラーに言う「あなたもいたじゃない」というところであったり、ロキの過去、ケラーの父親の件、アレックスが実際にどの程度のIQがあり、何かを隠していたのかどうかといった挙げればきりが無い謎ばかり。
何かが悪いと決めつける二元論でなく、”ただのズレ”から生じる曖昧さにも目を向けられるように日々過ごしたいと思える作品でした。まあ実際に難しいところではあるというのが本当のところですが。
それでは。