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幻想的な映像美:『ミツバチのささやき』のファンタジーと現実の交差点

「幻想的な映像美:『ミツバチのささやき』のファンタジーと現実の交差点」

ポスター画像


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スペインの名匠ビクトル・エリセが1973年に発表した長編監督第1作。

スペインの小さな村を舞台に、ひとりの少女の現実と空想の世界が交錯した体験を、主人公の少女を演じた子役アナ・トレントの名演と繊細なタッチで描き出した。

スペイン内戦が終結した翌年の1940年、6歳の少女アナが暮らす村に映画「フランケンシュタイン」の巡回上映がやってくる。映画の中の怪物を精霊だと思うアナは、姉から村はずれの一軒家に怪物が潜んでいると聞き、その家を訪れる。するとこそには謎めいたひとりの負傷兵がおり……。

2017年、世界の名作を上映する企画「the アートシアター」の第1弾として、監督自身の監修によるデジタルリマスター版が公開。

やはり名作は観るべきなんだなと思うわけです。

ポスターに興味が湧き、何かのインタビューでギレルモ・デル・トロ監督が「パンズ・ラビリンス」への影響を語っていたことでも頭に残っていたのが本作「ミツバチのささやき」。

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今回午前午前十時の映画祭13で上映されるということで行ってきました。

事前知識としては先に書いたような情報のみだったんですが、予想以上に心に残る映画でした。

はっきり言って痛快な作品でも、観ている間楽しいと思える映画でも無いんですが、とにかく印象的な画作りと雰囲気が頭から離れず、こういう作品は改めて好きなんだなと。

前後に町山さんの解説が入っていたんですが、これも良かったですね。おそらく、これが無かったら色々とモヤモヤが多かったはず。

とはいえそれらを知らずとも、この作品自体がある意味で「感じる作品」になっているので観た感想に変わりは無かったとは思いますが。

それがどう意味かというと、ファンタジー、実世界の境界線が曖昧に見え、地続きであるアンバランスさを伴った擬似的世界観。

日本でいうとジブリもそうだと思いますし、ギレルモ・デル・トロ監督作品なんかもそういう部分があるんじゃないかと思います。

空想とも妄想ともとれるような思考を映像化している作品というのは妙な部分をくすぐられる気がして、美しも儚く、感性を刺激されるんですよ。

なんなんでしょうね、このファンタジーと現実にワクワクさせられる妙な感覚って。

映画全体を通してのどことない危うさだったり、少しヒリつくような演出。ここに通底する魔法のような映像の耽美さがあればこそ持つ映画体験になっているんですよね。

そしてて、こうした作品によくあるのが少女や少年を媒介役としての物語進行。この話でも主人公はアナという一人の少女。

当時スペインでは内戦が起きており、その中でも、ある種暗号的に作られたのが本作であって、それらに対する希望的なモチーフとして描かれているのがアナになっているんですよね。

少女の無垢性や偏見の無さというものがいかに大切か。

そんな部分は所詮大人になれば失われてしまうし、綺麗事でしか無いと思ってしまうのも致し方ないと思うんです。でも、絶対に忘れてはいけないし、失ってはいけない感覚だとも思うんです。

SFが好きなのも、こういうファンタジー性が好きなのも、ようは「空想」に起因する想像力だと思っていて、それは何も救えないし、何も解決しないかもしれない。

けれども、心の豊かさとして、絶対にその人の糧になり得ると思っているんですね。その部分がこの作品にもあって、だからこそ名作になり得たのかなと。

映画的にも有無を言わせない素晴らしさがあり、まずはその描写力ですよね。

基本的にはフィックスの構図が多く、動きは殆ど無いんです。ですが、その構図に夜景や絶景を見るような美しさがある。

これはその風景自体が持つ力というよりは、画面内に収められた画としての力という部分が大きいと思っていて、だからこそ、誰しもが日常にある光景に近いと思うんです。

それがあんなに美しく見える不思議。

映像としてみれば、粒子感や粗さがあるものの、それを修復して綺麗にしたとて表現できない空気感を含んだ画作りが見事としか言いようがない。

一場面を切り取ったポスターを見てもそれは明らかですよね。ミツバチのささやき」上映作品詳細 - 午前十時の映画祭13 デジタルで甦る永遠の名作

子供のショットは特に美しく、よく撮れたなと思ってしまうカットも数多く出てきます。子供の神秘性を見事に捉えているというのもこの映画を美しいものにしている要因の一つでしょうね。

それからサウンドの生々しさも驚かされます。

汽車が来る時の音や銃声、日常での些細な物音などもつぶさに拾われており、音数は少ない中でそういったサウンドがかなり効果的に響いてくるんですよ。

迫力がというよりも音が迫ってくる感じ。どこか危うげな部分を感じるのもサウンドの影響が大きい気がします。

そもそも会話自体が少なく、全体を通して流れる音が少ないというのも幻想的な世界観を構築している要因かもしれません。

そんな中での印象的なのが頻繁に流れてくるサントラの一部。

たびたび流れてくるんですが、浮世離れのある浮遊感、このサウンドもまた映画全体をまとめ上げている良い効果ですよね。

ギミックとしての仕掛けも多く、映画内に盛り込まれている隠喩的なそれもまた相まって静かに一人浸りながら観るのにぴったりなスロー映画じゃないでしょうか。

残念ながらサブスク等にもほとんどない状況ではありますが、機会があれば是非観てほしい作品です。

では。

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