飛ぶ心地良さと壮大なテーマ性。
「奥行き感とリアリティ溢れる風景描写!『風の谷のナウシカ』が魅せる空間表現の秘密」
アニメ雑誌「アニメージュ」誌上に連載されていた宮崎駿の同名漫画の映画化。
宮崎監督自身が、監督、脚本を務めた。
高度な産業文明を破壊させた「火の七日間」呼ばれる大戦争から1000年。人類は、巨大な虫や、毒の森・腐海に脅かされながら生きていた。辺境の小国「風の谷」の族長の娘、ナウシカは、人間同士の争いに巻き込まれていく。
久々に観たけど、やはりこの作品における飛行シーンはマジで爽快。
飛ぶということをアニメーションで表現した時、奥行き感というか、上下の空間表現だとかが影響してくると思うんですよね。
スクリーンという単なる平面の中にそれこそ別世界の存在を感じさせ、風までも感じさせてしまう。
実写であればまだしも、それをアニメーションというリアリティに欠ける世界の中で完結させてしまうところに相変わらず驚かされます。
なにより、それを見て気持ち良いというのも重要で、その意味で宮崎駿監督作品はそういった気持ち良さが詰まり過ぎていると思う。
中でも飛行シーンが一番アガるわけだけど、心地良さは本当に飛んだことが無いにもかかわらず段違いにリアリティを持って迫ってくるのが不思議。
なにもそれは飛行シーンだけに言えることでは無く、空間表現力が高いというのは他のシーンでも多々登場してくる。
序盤でのオームの殻を発見するシーンや風の谷でのシーン、飛行機でのチェイスシーンもそうだし、腐海の地底に落ちていくシーンもそう。挙げればキリが無いのだけれど、そのどれもが心地よく、あの画面内に収められているとは思えないスケール感は驚かされるばかり。
そして本作が名作といわれる所以は、そのテーマ性や物語性にもあると思っていて、これがまた深い。
一見すると自然と人間の調和であったり環境破壊、争い事といったものをイメージする中、観る人のタイミングや感情によってさらにミクロ的な視点が揺さぶられる。
今回改めて観て、ナウシカは結局何を守りたかったのか。
自分の信念なのか、同郷の人間なのか、生物全体なのか、虫達なのか、自然なのか。
人って生きていくフェーズごとに考え方や身なりといった諸々が玉虫色に変わってくると思うんですよね。そこにその人の核であったりは残しつつ。
本作に出てくるナウシカの衣装を観ても明らかなわけで、その上で振舞いを改めたり、見直したりして軌道修正していく。
でもその上で常に考えないといけないのは「何の為に」ということだと思っていて、作品内でのその目的として、ナウシカは何を思い、行動してたんだろうなとふと思わされた。
表層上の目的はわかるんだけど、そのさらに深い所にある深層心理みたいなものを考えると、ナウシカの悲しみというか、悲壮感のある表情の核心がある気がして何とも言えない気持ちにもなった。
映像的心地良さと幾層にも重なった問題の複雑さ。それを取っ付き易いイラストでさらっと作品化するところにこそジブリの真骨頂を感じますよね。
やっぱりそういった意味でのジブリの偉大さは唯一無二だなと改めて。というか宮崎駿の成せるところなのか。はたまた鈴木敏夫のプロデュース力なのか。いずれにせよジブリの懐の深さを再認識したわけで。
今日から新作の公開という偶然も重なりましたので、さっそく観に行こうかと思います。
では。