味わったことない緊迫感。
『 オープニングナイト:ジーナ・ローランズの圧倒的な演技力と複雑怪奇な旅の魅力に迫る』
自らの老いを自覚しはじめた有名舞台女優が、新作舞台の初日を迎えるまでの葛藤を描いた人間ドラマ。カサベテスの妻でもあるジーナ・ローランズがヒロインを演じ、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。
舞台女優として活躍するマートルは、自分の熱狂的ファンだという少女が車にはねられ即死する現場を目の当たりにしたことをきっかけに、精神のバランスを崩しはじめる。そしてついに新作舞台の初日の夜、開演までに戻るという言葉を残して行方をくらますが……。
カサベテスも出演し、自身の監督作の中でローランズと夫婦役で共演した唯一の作品でもある。
このまえ『アメリカの影』を観てから間もなかったこともあるのか、こんなに差を感じ、衝撃を受けるとは思いませんでした。
観る前は144分という時間に、「意外に長いな」と思っていたんですが、見始めたらあっという間。
こんなに面白く、惹きつけられ、世界観があるとは思いませんでした。
まぁそれもこれも、ジーナ・ローランズの演技があればこそなのは間違いないでしょう。
この映画のテーマとして”老いと現実”というものがあると思うんですが本作出演時のローランズは47歳。見ていても若くは無いだろうけど綺麗だし、実際いくつなんだろうなと思っていたんですよ。
年齢を調べてみて、納得というか、実年齢よりは確実に若く見えますが、劇中での葛藤を実際に感じるような絶妙な年齢だったことは容易に想像がつきます。
それにしても演技力が凄すぎる。
錯乱や舞台上での振る舞い、スターとしての存在感や、孤独を抱えた様子など、とにかくあらゆるシーンにおいての演技が抜群。
なんでこんな自然体で、ここまで振り幅のある演技がこなせるんだろうと思ってしまうほど、感心しかない。
もうこれだけでも観る価値大ありですよ。
その中でも終盤での酔い潰れてからの一連の流れは、本当に素面だったんでしょうか。あれが素面ならもうヤバ過ぎでしょと思うくらいの演技力。
まあこの辺含め絶対観てほしいところですね。
話がいきなり偏ってしまいましたが、ストーリー的にもかなり強度が高くなっており、劇中劇、テーマ性、ともにメチャクチャ効果的でした。
冒頭から、これって始まってるんだよねと思ってしまうような出だしと設定で、何も知らずに観ると、”あれっ”と思っているところでタイトルバックが登場。
これもニクい演出というか、かっこ良い。
さらに、そこからのローラ即死までの流れもエグい。というか即死場面がエグいだけなんですが、シーン自体のエグ味というよりもその場の雰囲気、効果、サウンドなどが変に生々しいんですよ。
それをきっかけにして、おかしくなっていくような話なのかなと思っていたら、それもまた違う。
実際にその影響が皆無だとは思いませんが、それ以上に自分の中にある葛藤や、”演じる”ということへの疑念めいたものをより感じる作りで。
確かに考えてみれば、演じているのは誰かであり、何か。でも演じているのは自分自身なわけで、その上で、平行線的に年齢という横軸が用意されている。
その横軸の振り幅を考慮しながら現時点を捉え、四方八方に散らばる役柄を演じなくてはいけない。
これって考える以上に複雑ですよね。
役柄や自分と全く異なる誰かを演じるにしても、年齢は体感的に自分の年齢までしかわかり得ない。なんならそれもわかっているようでわからない部分があるわけで、劇中でも出てくる若さへの情景みたいなものって誰もがありますよね。
あの時こうしていれば、あの時の何か変わっているのか。そういった今だから感じる過去への景色みたいなものがあるからこそ、今であったり未来を考えられるわけでもあるんですが、それが足枷になることも当然あるわけです。
その複雑怪奇な”老い”というものに対して、いちようの解決をみているところが潔く、観終わった時にスカッとする。
終盤もどこに連れていかれるんだろうと思いながら、なんとなく終わりが見えてきたとき、”こういうことでもいいのかもな”と思わされるから不思議なものです。
この辺の解釈は是非それぞれ感じるままに。
全体的なところでいうと、脚本が本当に素晴らしいですね。
濱口竜介監督もコメントしていましたが、似てますよね。テイストが。
ただ、劇中劇の雰囲気、観客との関係性、さらに作中内での世界観というか生活感。この辺の表裏一体な感じを観ていて、納得しかないというか、気付きの連続と驚きというか。
俄然他の作品も観たくなりましたね。
それでは。