見事過ぎるほどの爽快感。
「ロボコップ」のポール・バーホーベン監督がロバート・A・ハインラインの小説「宇宙の戦士」を実写映画化し、昆虫型宇宙生物と人類の戦いを過激描写満載で描いたSF戦争アクション。
未来の地球。民主主義崩壊後、人類は地球連邦政府の支配下に置かれ、兵役を経た者だけが市民権を得ることが出来た。ブエノスアイレスの高校を卒業した青年リコは、宇宙軍のパイロットを目指す恋人カルメンに影響されて軍に入隊する。最も過酷な機動歩兵部隊に配属された彼は、猛訓練の日々を経て分隊長に任命されるが、訓練中に仲間を死なせてしまい除隊を決意する。
そんな矢先、昆虫型宇宙生物アラクニド=バグスの襲撃によって故郷が壊滅したことを知った彼は、仲間たちとともに壮絶な戦いに身を投じていく。
この映画ってこんなに痛快でしたっけ。そう思ってしまうほど、気持ち良いほど人がどんどん死んでいく。別にそこが魅力なわけじゃないですが、とにかく潔く死ぬ。
改めて観るとヴァーホーベン味たっぷりな映画だなというだけなんですが、本当にこの監督はコンプラとか一切お構い無し。
個人的にはそんな過激過ぎるほどの現実感を、突き付けてくれるから好きなんですが、間違い無く人を選ぶ作品と言えるでしょう。
そんな本作は青春モノとSFモノの要素が混在したような宇宙生物襲来モノ。
これだけ聞くとどんな作品なんだと思うかもしれませんが、観れば納得の世界観。
序盤に関して言えば、それこそどストレートな学園青春モノですし、それはそれで最高に楽しい。逆に言えばそれがSF的それと関り、現実的な残酷さを受容した時、真のヴァーホーベンらしいリアルを体験できるとも言えるのですが。その対比込みで、さすがといったところ。
この『残酷なほどの現実』っていうのが中々のもので、ここまで生々しく、ここまで潔く表現する監督ってそういないと思うんですよね。仮に見せたとしても、どこか演出的だったり、何かを伏せて表現したりと、どこかに忖度が入ってくるものだと思うんです。でも、本作にはそういった類のものが一切皆無。
実世界ってそれがリアルなわけで、急に誰かが死んだり、急に何かが起きたりということが間々あるわけですよ。そんな想定外なことがほとんどで、突如として突飛も無い現実に放り込まれてしまうというのがリアル。
この体験を映画でさせてくれるっていうのはやっぱり稀有なわけで、だからこそより具体的に色々なことを考えるきっかけを与えてくれる監督であり作品なんじゃないでしょうか。
この作品、ディズニープラスで配信されてるってことも驚きなんですが、原作もあったんですね。ロバート・A・ハインラインの小説、『宇宙の戦士』。
ハインラインと言えばSF小説の巨匠ですし、その意味では小説自体もメチャクチャ気にはなります。ただ、映画的にここまでのクオリティのものを見せられると、それはそれで満足なわけで、全然映画だけでもお腹いっぱいになることでしょう。
映像的な魅力もかなりあって、時代を感じさせられるようなところもありつつ、それでも圧倒的インパクトを感じさせる画作りはさすが。
ちょいちょい挿入されるプロバガンダ映像も皮肉たっぷり、最初何を見させられてるんだと思ってしまうんですが、徐々に全容が明らかになり、終盤では癖にすらなってくるほどの何とも言えない演出。
あの中で描かれる人間社会の縮図としての箱庭感。結局見せられている側面というのは現代のテレビやゴシップと同じライン上にある、誘導されたような一辺倒の偏重報道。これが人の信仰というか、まやかしというか。所詮この世は作られた虚像を中心に動いているわけですよ。
これを映像として上手く組み込んでいることも、その組み込み方も実に上手い。
宇宙での各カットもチープなのになぜか魅力的で、当時100億近くかけて制作しているというのは伊達じゃない。今でも廃れないような工夫がそこかしこに散りばめられているように感じます。
中でも戦闘機による飛行シーンは特に迫力があって、飛んでるGを感じるくらいヒャッハー感があるんですよ。切迫感や緊張感といったものも伝わってくるんですが、SWのそれもそうだし、良いSF映画はこういうシーンによる映画的心地良さがある。
こう考えると、テクノロジーの進歩だけが臨場感に繋がるわけじゃないというのを改めて感じちゃいますよね。
この辺を日常やドラマ的な作品で無く、宇宙やSFのような壮大なシチュエーションで行えるというのはヴァーホーベンの手腕があってからこそなんでしょうが。
他にもらしさの部分で言うと、要素同士のマッシュアップ、特にスタートレックやスターウォーズ的な世界観もお見事。
リアリティというか、少々政治的、内省的な部分はスタートレックのようですし、アドベンチャー、アクション的なところはスターウォーズ的。先の青春、SFモノといったところの混在ももちろん素晴らしいんですが、このスタートレック、スターウォーズ的な混在もまた非常に良い感じ。
相反するようなバランスの舵取りが上手いんですよね。とはいえ、本作はその緩急が激し過ぎると思いますが。
ストーリー的なところもそうで、前半に高まってくる、学園モノのワクワク感、ドキドキ感。これ高まれば高まるほど、その後の現実に直面した、生々しい展開に効いてくる。まあそれがあるからこそ、本当の現実というものをまざまざと思い知らされるわけですが。
何も考えていなかった学生時代の自分と前半部の彼らを重ね合わせ、後半部の否応ない現実を見せられた時、自分にも思い当たる節があるというか、現実はそこまで甘くないとド直球に示されるからこそ驚かされる。
ハッキリ言って最後まで展開の予想も付かず、本当に最後の最後まで何を仕掛けてくるかわからないところこそが魅力。
ヴァーホーベン作品のこういう感覚、やっぱり好きですね。
では。