コーエン兄弟らしい面白さの原点。
『午前十時の映画祭11~ファーゴ編~』
コーエン兄弟によるブラックユーモアをちりばめた異色のクライムサスペンス。
厚い雪に覆われるミネソタ州ファーゴ。多額の借金を抱える自動車ディーラーのジェリーは、妻ジーンを偽装誘拐して彼女の裕福な父親から身代金をだまし取ろうと企てる。
ところが誘拐を請け負った2人の男が警官と目撃者を射殺してしまい、事件は思わぬ方向へ発展していく。
アカデミー脚本賞、主演女優賞をはじめ、多数の映画賞を獲得した。
オープニングの長回しに始まり、あの西部劇感。雪なのに何故か哀愁漂うような冒頭から、らしさ全開で一気に引き込まれました。
これが実話ベースで起きているというのも驚きだけど、人の欲というか、人の本質というのは本当に不可解だなと思わされる。
この話は負のスパイラルに陥った展開だったけど、逆もまた起こり得る話な訳で、あの計画がトントン拍子で進んでいたらと思うと、それはそれでどうなのかとも思う。
世の中にはそうした見えない何かに包まれた真実の隠蔽みたいなものが蔓延っている中で生活しているんだと考えると、ある意味この話の皮肉な部分が見えてくる気がする。
この話の面白いところはサスペンス的なスリリング感とシュールなギャグ的要素を持った絶妙なバランス感にあると思っていて、その辺がさすがコーエン兄弟。脚本の構成がよく出来てるなと思わされる。
他の作品だと長編のものが多い中、この作品は98分というのも観やすいところ。この時間でこの展開を盛り込んだことも流石の手腕じゃないでしょうか。
分かっているのに、最後まで噛み合わないという仕掛けがずっと継続しているという独特のサスペンス演出。
顔芸とも言えるアップの抜きでの絶妙な間がであったり、構図を二つに割って動と静を見せる間抜けな感じだったりといったコメディ感。
個人的にスティーヴ・ブシュミは好きな役者で、彼が出ることで独特のテンポ感であったり、独特の間が出来る。さらに小悪党感がメチャクチャある顔なので、愛嬌も感じちゃうんですよね。ギャング映画なんかの印象が強いこともあるんでしょうけど、とにかくあのなんとも言えない佇まい、今回は主役級に良かった気がします。
それにしても映画における雪と血の鮮烈な感じってなんなんですかね。撮られている構図もあるのかもしれませんが、特にこのファーゴでは印象的かつショッキングに見えるシーンが多かった気がします。
綺麗だなとすら思ってしまいますが、起きていることを考えるとゾッとする一場面。それが映画内では効果的に使用されていて嫌いになれない場面でもあります。
その意味ではコーエン兄弟って、単なる物語の構成の冥利以外に、グロテスクさの表現というのもあるんですよね。
物語の展開上起きる生々しいリアリティを隠すことなくストレートに見せる。これがショッキングでもあり、真実であるという面白さ。脚色したり、良く見せたりというのが一般心理の中で、目を逸らさせない本当の現実を突き付けてくるという感じでしょうか。その辺が本作に関しては物語ともリンクし、中々興味深いところではありました。
あと作品内で頻繁に食事シーンが出てくるんですが、これまた全然美味しそうじゃない。食事シーンですらグロテスクに見えてしまいますし、これは絶対に意図的なんじゃないかと。
悪人側のものであればわからなくもないのですが、警官であり善人側のマージ夫妻サイドもそう。
どちらかと言うとこちら側に意図があると思っていて、生きるためには清濁合わせ飲む必要があって、それでも摂取し糧として消化し、前には進まなければいけないんだと言ってるように思いました。
ラストでのマージが言う「補い合う」というワードであったり、3セント切手の絵柄に旦那であるノームの絵が採用されたりと言ったエピソードもそう。搾取でなく、共存、共栄を。そんな話だったように思います。
最後に気になったジェリーの息子のその後。滑稽とも言えることの顛末を知った時、それでも親だからと考えてしまうのか否か。あえて調べずにおきたいと思います。
では。