味付けが絶妙な定食屋・・・のような癖になる作品。
『偶然と想像』
「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」の濱口竜介監督初の短編オムニバス。
2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した。
親友が「いま気になっている」と話題にした男が、2年前に別れた元カレだったと気づく「魔法(よりもっと不確か)」。
50代にして芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みから彼を陥れようと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせる「扉は開けたままで」。
仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違っていく「もう一度」。
それぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語から構成される。
共通して敷かれている偶然と想像。
日常に有り触れているようで気付くか気付かないか、出会うかで会わないかといったギリギリのところを絶妙なカットや会話劇で繋いでいく本作。
なんとなくドキッとしてしまうようなスリリングさもあり、普通なら中弛みしてしまいそうな会話劇を絶妙なテンポ感で描いている。
各話の作品時間も内容もとにかく絶妙。
それに拍車をかけるのが役者陣の演技なのは間違いないんだけど、それ以上に脚本が素晴らし過ぎる。
物語りって面白い物語を面白く語る以上に、どの話を切り取ってどう見せるのか、日常生活でも話が面白い人とそうでない人の差はそういったところに出てくるんだろうな等と思いつつ、脚本のお手本のような纏まり具合にあっという間の121分でした。
観るタイミング、視点、視聴回数、誰と観るか、どこで観るか。そういった要素の組み合わせにより幾通りもの見方が出来るような気がする作りも含めて、スルメの様に楽しめることでしょう。
実際劇中三作品の順位を付けるのも難しく、これもまた状況により受け取り方が変わってくるので甲乙つけがたい。
今の気分は二作目が中々にグッと来たといったところ。あのバランス感、シチュエーション含めてわかる、わかると思いながらもわかってくれない世界に生きていることを理解させられたり。
何よりあの結末の描き方も露骨過ぎず、奇をてらっていないところもまた良い。
まあそれも僅差のところなので、絶対にまた観た時には変わる気がします。それくらいそれぞれ良くて全部良い。
そんな作中で特に面白い作りだなと思ったのが演者の話し方。
どこか棒読みというか、台本を音読しているようにすら感じてしまう淡々としたセリフ回し。
それにより一歩引いた視点で観れるというか、切り離された舞台上のお話的な違和感と、起きている事象のギャップが面白く、会話劇そのものに集中できる。
監督曰く、台本を何度も読み込ませ、どんなシチュエーションでもセリフが出てくるように演出していたとのこと。視聴時はそれを知らず、帰宅後にインタビューなどを読んでいた時にそれらが書いてあったので、なるほど、と思いながらその効果を十分に堪能しました。
その辺の後日談で言うと、実際はこの短編も他に四話ほど用意したかったらしく、今回はそれら七作品のうちの三作品とのこと。こうなると俄然他の四話も観てみたい。
評判は良かったものの三時間近い会話劇はどうなのかと思って敬遠していた前作、ドライブマイカーもこれで観たくなったのは言うまでもありません。
まだ劇場でやっているうちに観に行きたいところ。長い映画は映画館に限る。
では。