欲望と隔絶は人を狂わすのか、はたまた人が本質的に内包しているものなのか。
『ライトハウス』
「ウィッチ」のロバート・エガース監督が、「TENET テネット」のロバート・パティンソンと名優ウィレム・デフォーを主演に迎え、実話をベースに手がけたスリラー。
外界と遮断された灯台を舞台に、登場人物はほぼ2人の灯台守だけで、彼らが徐々に狂気と幻想に侵されていく様を美しいモノクロームの映像で描いた。
1890年代、ニューイングランドの孤島。4週間にわたり灯台と島の管理をおこなうため、2人の灯台守が島にやってきた。ベテランのトーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、初日からそりが合わずに衝突を繰り返す。
険悪な雰囲気の中、島を襲った嵐により、2人は島に閉じ込められてしまう。
さすがA24といったところで、やはり尖っていました。
大衆映画に媚びないというか、そういった映画作りには本当に感服します。本作は中でも尖りすぎている気がしていて、まさに怪作といったところ。
登場人物2名、舞台も灯台のみ。もうこれだけ聞いて映画が成立するのかと思ってしまいますが、しっかりと成立してしまうんですね。
冒頭から不穏な霧笛と共に濃淡強いモノクロ映像がズッシリきます。画角も正方形に近いスタンダードサイズでクラシカルな画作り。
本作は良くも悪くも本当に何も起きない。正確には起きているのかどうなのかも分からなくなってくるほどに虚無や混沌、不安といったある種の怖さを感じるばかり。
冒頭の会話から、序盤こそたかだか4週間程度の出来事かと思っていたものの、それ以上に不安や恐怖の高まりを感じるのはやはり不穏な音とモノクロの効果なのか。
神話的な服見やモチーフが多分に含まれている作品なので、それを知っていれば当然楽しめるとは思うんですが、そうでなくても楽しめると思います。というのも本作から個人的に受けた印象は『光』と『隔絶』というもの。
光というと希望とか幸せといったポジティブなものとしての描かれることが多い気がしますが、本作では真逆、恐怖や欲望の対象に見えてくる。
光って結局視認できるけど不確かなものだし、不気味だったりもするわけで、そういった未知への羨望みたいなものが欲望にも似た感情を抱かせるんだと思うわけで、とにかく不穏に見える。
それから隔絶、人は一人になりたいとか社会と接点を持つのは面倒だとか言う人もいるけど、それが現実となった時にどう感じるのか。本作ではいちよ2人という設定ではあるものの、それも実際にどうなのかわからず、社会と隔絶されているのは事実。
期限付きであれば納得できるものも、期限が未定になったとたんに不安に苛まれる。よく、閉鎖された空間で時間間隔も失った状態に人は耐えられなくなるという話を聞くけれど、これもある意味でその状態に近い気がする。
灯台という閉鎖空間で、鬱屈した思いだけが募っていく。スタンダードサイズの画角も相まってとにかく窮屈な印象。
これほどまでに灯台の音や光、波の底無しの怖さを直接的にでなく、感覚的に抱かせるというのは、見事である一方、これが現実なのかもしれないと思うと少し怖くもなります。
視聴後にあらすじなどを観ていてジャンルがホラーだということを知ったんですが、それも納得といったところ。まあホラーといっても異質なホラーであることは間違いないですが。
とにかく、この灼熱の暑さの中、涼しい映画館で観るには最適な映画な気がします。
とはいえ万人受けするような作品では無いと思うので悪しからず。
本当に人生の機微や意味に関して考えさせられます。そして怖くなります。自分を自分たらしめるのは何なのか、