そのままである難しさと認めるということ。
『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』
ルカ・グァダニーノ監督がテレビドラマに初挑戦!カンヌ国際映画祭・監督週間でも選ばれた期待作
『君の名前で僕を呼んで』(2017年)、『サスペリア』(2018年)など数々の話題作で世界を驚かせ続けるルカ・グァダニーノ監督がテレビドラマに初挑戦。
アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞ほか、名立たる賞レースでのノミネート、受賞歴を持つ監督自ら脚本、監督、製作総指揮を務めた本作は、コロナウィルス感染拡大の影響によりあえなく中止とはなったが、2020年のカンヌ国際映画祭・監督週間にも選出されるなど、アメリカでの放送前から期待が集まった注目作。
描かれるのは、監督のこれまでの作家性が凝縮されたような、10代の少年少女のままならない青春、そして苦悩だ。手書き風のタイポグラフィ、スローモーションやPOVなど挑戦的なシーンも多数あり、2020年代を代表する1本となるだろう。
ちょうどプライムセールの際にスターチャンネルドラマクラシックが2か月99円というセールをやっていたので入って観ました。
前から観たいと思っていた本作だったんですが予想通り最高な作品。
監督を務めるのがルカ・グァダニーノ。『君の名前で僕を呼んで』で一躍有名になった監督ですが、多分に漏れず映像美が素晴らしい。
イタリアのカラフルさと伝統的な建築の見せ方が見事。
本作は舞台はイタリアながらもその中にある米軍基地がメイン。この入れ子構造がまた見事で、文化的、社会的背景の齟齬と年齢的、ジェンダー的な齟齬が複雑に描かれていく。
とはいえ難しく考えなくても、ただただ青春群像劇が描かれていているといっても過言では無いと思う。
ただ、旧来のそれとは大きく異なっており、以前以上に複雑になった若者の感情やあり方なんかが描かれている。若い頃ってとにかく感受性は豊かだったと思うし、ある種社会と距離があったというか、気にしていなかった。気にしていたのはどちらかというと周囲数十メートル内のことがほとんどだったし、本質的な気付きみたいなものもほとんどなかったと思う。ただ上っ面にカッコイイこととか、憧れることとか、好きなこと、みたいなものに突き動かされ、刺激されてといった感じだった気がする。
その辺は本作でもまさにそのまま描かれているし、多感な感情も良く表現されている。大きな違いと言えば特に『性』の部分で、何をもって他者と線を引いたり、踏み込んだりするのかということ。
この辺がジェンダーレスになってきている昨今としてはかなり考えさせられるところがあると思うし、テーマ性とも大きく結びついている気がする。
そこに『国』や『アイデンティティ』という、根源的であるものの、不確かで観念的な概念が入っているのも面白い。
若者の日常を描いているわけで、やはりファッションや音楽も切り離せない。主人公のフレイザーはファッションに興味があり、着ているものもラフシモンズやギャルソンといったハイブランドのもの。
表向きのデザイン性だけでなく、その哲学などにも興味を持って着ているところが内面の葛藤とリンクしてると思うし、その着こなしも回を重ねるごとに馴染んでくる。
その辺の細かい部分がルカ・グァダニーノの見事な部分だと思うし、それを演じているジャック・ディラン・グレイザーのこなれていく演技力も見事で癖になる。
音楽面もブラッドオレンジが手掛けていて、素晴らしくマッチしている。カラッとした雰囲気のものもあればしっとりとしたムードある楽曲もぴったり。
特に終盤のライブシーンの上がり様といったらこのコロナ禍ですっかりご無沙汰となってしまったあのライブの興奮が蘇る。
臨場感とスタイリッシュさ、人でごった返したあの空間での特別な時間を若い頃に体験すれば間違いなく忘れられない経験になるであろうことがひしひしと伝わってくるところ込みで、本当に良いライブシーンだった。
誰にでもあったあの頃と、今の時代の空気感をマッシュアップさせ、映像的にも音楽的にも心地良いバランスに仕上がった今の時代のドラマじゃないでしょうか。それにしてもルカ・グァダニーノ、ハマりそうです。