人生とはモノという考え方。
『ラッキー』
「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス」で知られる個性派俳優で、2017年9月に逝去したハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作。
「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」などの名脇役ジョン・キャロル・リンチが初メガホンをとり、スタントンに当て書きしたという90歳の気難しい現実主義者ラッキーを主人公に、全ての者に訪れる人生の最後の時間を描く。
神など信じずに生きてきた90歳の男ラッキー。ひとりで暮らす部屋で目を覚ますとコーヒーを飲んでタバコをふかし、なじみのバーで常連客たちと酒を飲む。
そんなある日、自分に人生の終わりが近づいていることに気付いた彼は、「死」について思いを巡らせる。子どもの頃に怖かった暗闇、去っていったペットの亀、戦禍の中で微笑んだ日本人少女。
小さな町の住人たちとの交流の中で、彼は「それ」を悟っていく。スタントン本人の体験に基づくエピソードが描かれるほか、長年にわたるスタントンの盟友デビッド・リンチ監督が主人公の友人役で登場。
まだ30代、もう30代。
30代も半ばになってくると徐々に感じ始めるのが今後の人生というもの。
10代や20代の頃には何も考えていなかったことの中で、徐々に考える内容もシフトしてくるものです。
本作のテーマはその遥か先を行く90代。そして死期を前にして考える『老いと死』。テーマ設定も去ることながら、舞台として選んだメキシコの郊外、自伝的内容にも近いキャスティングのハリー・ディーン・スタントンを起用したところもかなり良いです。
そんな死期を目前にした主人公の日常をあたかもロードムービー的に見せるルーティンが実に心地良く、憧れる形の日常として描かれています。
好きなことをして、自分で決めたルーティンをこなしていく日常の撮り方が凄く綺麗で、深みがある。その独特の空気感が本当に心地良くゆったりしているんですよね。
特に煙草に火をつける際の手元のカットがカッコ良くて、やめてた煙草を吸いたいと思わせる魅力十分。死期を悟ったら煙草を吸って、こういう余生を過ごすのもありだなと思ったりもしてしまいました。
ルーティンで行っているダイナーの感じもそうで、クロスワードパズルをしながら他愛の無い会話をして、過ごす。スローなんだけどそのスローさが魅力で、ゆったりとした時間を過ごしたくなります。
最近の同じような日常系だと『パターソン』がありましたが、あれも何気ない日常とルーティンが最高。
とにかく日常が最高な映画は最高なわけで、そういった意味でも本作は良い生活の緩衝材になりました。
テーマと同様に解釈の終着点も見事で、作品内でスタントンが考える「現実主義=モノ」「モノはいずれ無くなる」「無くなるから微笑む」という考え方。
これが妙にしっくりきて、そう考えると全ては一過性のモノであって、深く考えることも不必要に悩むことも、苛立つことも、悲しむことも、あらゆる悲観した考えは一掃できる気がして、スッとした。
とにかく全ては『nothing』何もないからこそ恐れるけど、恐れても何もない。そんな風にして良いことだけを考え、享受し、感謝することが出来ればと、心洗われ、温まる作品でした。
それにしてもリンチが出ていたのも作品の深みというか、関係性みたいなもののリアリティが観られて