地獄とは他人のことであり、天国も他人であるかもしれない。
『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』
『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』予告編 - Netflix
デビュー作「素顔の私を見つめて…」で注目を集めたアリス・ウー監督が15年ぶりにメガホンをとった、Netflixオリジナルの青春恋愛映画。
アメリカの田舎町で暮らす中国系の女子高生エリーは、内向的な性格で周囲となじめずにいた。頭脳明晰な彼女は、同級生の論文を代筆して小銭を稼いでいる。
そんなある日、エリーはアメフト部の男子ポールからラブレターの代筆を頼まれるが、その相手は彼女が密かに想いを寄せる美少女アスターだった。1度は拒否するエリーだったが、家庭の事情でお金が必要になり、仕方なく代筆を引き受ける。
Netflixで2020年5月1日から配信。
ポスタービジュアル然り、有体なストーリー然りであまり期待はしていなかったんですが、大きな間違いでした。
青春モノにはカルチャーやカッコよさ、わくわく感みたいなものが欲しい性質なんですが、本作にはそれが全く感じられず、むしろ視聴後もそこには全く興味を抱かせない。
それなのに何なんでしょう、この作品が持つ吸引力は。
人に対して好意を抱くという純粋でシンプルな感情を丁寧に描く。それは簡単に描けることじゃないこともわかりつつ、本作ではそれが自然と出来ている。
LGBTQを取り扱った映画に必ずと言っていいほど登場する性描写。この描かれ方がいまいち好きになれなくて、敬遠しがちなところもあったんですが、本作にはそういったものも一切無く、ただ『人を好きになる』ということだけが存在する。
その過程のみを描いているところに凄く惹かれた。
人を好きになることに性別や国籍、家柄や年齢といった属性は関係ないと思っている。とはいえ、あまりにも露骨に性描写を見せられると何か違うと思ってしまう。そんな中で本作のような作りというのは、ある種現実的で、自然体に見える。
考えてみれば『好きになること』って単純に好意を寄せることから始まって、その思いが特別なものに変化していくだけのこと。それが好きになることもあれば、仲が良い、気が合う、そういった形に変わるだけなんだと改めて気付かされる。
人の感情の移り変わりが丁寧に描かれ、その複雑さは増していく。ただ、自分の中に埋もれてしまっていた『好く』ということについての認識を取り戻した気がした。
個人的に一番やられたシーンがあって、エリーがパーティーで酔いつぶれ、ポールの家で寝ているという場面。そこでポールがある手紙を見つけて・・・翌日へ。
その流れが最高で、本作全てのカタルシスが詰まっているんじゃないかと思うほど。
人を想い、敬い、その人の為にと考え行動する。その行為にこそ『好く』という過程が詰まっていて、ハッとさせられた。
映画や本、思考、共通言語として分かり合えることの必要性や存在としての安心感、表面上だけで付き合うこと以上に大切なことに気付かせてくれた良作でした。
観れば観るほど気付きが増えるようなそんな作りも好きになる要因なのかもしれないです。
新しい形の青春映画として是非観てほしいところです。