やるせない事実こそが人生。
『殺人の追憶』
韓国で実際に起きた未解決殺人事件をリアルな演出で映画化。
86年、ソウル近郊の農村で、同じ手口による若い女性の惨殺事件が連続して発生。地元の刑事パク・トゥマンとソウル市警から派遣された刑事ソ・テユンは対立しながらも捜査を続け、有力な容疑者を捕らえるのだが。
監督ポン・ジョノは99年に「ほえる犬は噛まない」でデビュー、2作目の本作で韓国のアカデミー賞・大鐘賞の作品賞・監督賞・主演男優賞・照明賞を受賞。
『パラサイト』の余韻と共にポンジュノ作品を観ようと思いまして、とりあえず地上波で年末に放送されていた『殺人の追憶』を鑑賞。
最近の韓国映画は良作が増えているように思いますが、これはやはり名作でした。
完全に個人的なことなんですが、アジア系の映画は洋画以上に固有名詞が入ってこない。音が似ているからなのか、馴染が無いからなのか。そういったことが影響し、ストーリーの理解も悪くなり、中々世界に入っていけないという問題がありました。
本作も序盤はそうだったんですが、テンポの良さとクスッと笑えるような仕掛け、脚本に助けられ、すぐに世界感に浸ることができました。
序盤から不穏かつ見入ってしまうようなカットが多く、何とも言えない怖いもの見たさを触発される仕掛けは見事だなと思いました。
そして実際に起きた事件ということと、年代も関係しているのかもしれませんが、とにかく一つ一つが生々しい。
捜査の粗さや、協力体制、科学技術もそうですし、警察の体制も含めて。全てが生々しく、空気感まで伝わってくるようです。そういった時代性を伴った生々しさを画として見せる技術においては素晴らしい監督だなと改めて思いました。
ストーリーはある程度事実に基づいて進むんですが、本作の題材となっている事件はいわゆる未解決事件。どういった展開で畳むのかと思っていたんですが、それも予想外の展開でした。
一般の人々が過ごす世界や現実をありのままに見せ、それに伴う不条理さを説く。
この辺の技術の高さは演者も含め、素晴らしいものがあると思わされたラストでした。特に目で訴えてくる演技。これは文字通り目をそらせない程力のあるものでしたし、深く考えさせられました。
各人が考える不条理は時代を問わず、誰の眼前にもあるのだと。
主題としては中々重いものですし、描写もヘビーなものもある作品ですが、それ以上に目を向けなければいけないものもあると思うので、是非『パラサイト』と併せて見てほしい作品かと思います。