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探幽訪真:深く、自由に、偏りなく潜る

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『13階段』で試されるのは犯人探しじゃない――あなたの“信じる力”だ

13階段

宮部みゆき氏絶賛!!!
手強い商売仇を送り出してしまったものです。――(本書解説より)

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

思い描く犯人像が移り変わる。

話の始まり、徐々に明かされる真実、そこかしこに散らばった伏線が頭をかき乱し、そのどれが真実で、というよりも何を信じればいいのかの輪郭が曖昧にぼやけてくる。

正直読み始めての感想というのはそこまで傑作と言われるところがわからず、むしろどういったところに話を展開していくのかが見えてこない。

まあ、こちらの先入観というのもあるわけで、警戒しているが故に話の裏を見ようとしてしまう。

ですが、話自体の面白さは序盤からあって、読めない展開や不可思議なバディなど、物語をドライブさせていくには十分過ぎる要素が散りばめられている。

重なりそうで重ならない複数事件の存在というのも面白い要素で、この辺の関連性、それにかかわる人物たちの関係を想像しながら読み進めるのも引き込まれるポイント。

会話劇から真実を炙り出すというよりは、起きている事象や事実などから想像を紡ぎ、真相を解明するような構成。

まるで何者かにでもなったような感覚を抱かせるというのもあってか、主観による体験めいた展開で物語が進み、思考が回転させられていく。

階段の意味は何なのか、すれ違う事件の関連性は。

疑えば疑えるし、信じれば信じられる。

”信じる”というところにおける不動明王のモチーフめいた存在感。贖罪と救済、神による裁きと人間による裁き、階段というモチーフの象徴性、現実社会の制度や倫理の矛盾を通じて精神性を問うということも込みで何を信じるべきなのか。

価値観を試されているような構成と、法に対する認識の問い直し。真に見るべきものを考えさせてくれると同時に、本筋のミステリー部分も綿密に練り込まれている。

3/4あたりでの、ある事実が判明した時の衝撃はヤバかったですね。

そこまでの自分を試されているかのような。

本だけでは体験不可能な、人と人、生身だからこそ感じるようなそれぞれの肉感を伴った、心証を頼りにしていく様などは、想像の中でではあるが、スリリングで、純粋に揺さぶられる。

徐々に真相の形が見え始め、物語の加速と共に読む手も加速する。

そこからはあっという間でしたね。

死刑制度に対する自身の見方、社会というものの不条理さ、人を信じるということの重要さ、改めて自分の視点を見直す契機にもなり、抜群に面白いミステリーも堪能できた。

最後に作品の小ネタでも

1. 著者の出世作
13階段』(2001年)は高野和明のデビュー2作目で、第47回江戸川乱歩賞を受賞。これがきっかけで彼は広く知られるようになり、後の『ジェノサイド』で直木賞候補にもなるなど、キャリアの礎を築いた重要作です。

2. 「13階段」は死刑囚の階段
タイトルの「13階段」とは、死刑執行時に絞首台へと続く階段の段数を意味しており、死刑制度そのものを象徴しています。このリアルな数字は実在の東京拘置所の絞首台が13段であることに由来しています。

3. 死刑制度への問いかけ
単なるミステリーではなく、日本の死刑制度や更生の可能性、冤罪の問題などを正面から扱っています。作者自身が「テーマ先行で書いた」と語っており、社会派推理小説としての一面も持っています。

4. 刑務官の実体験を参考に
作品中の刑務官の描写は、実際に刑務所で働いた人物からの取材や資料を基にして描かれており、リアルな裏側が丁寧に描写されています。

5. 作者は元脚本家
高野和明は元々、映像業界で脚本を手がけていたこともあり、場面の描写や展開のテンポが非常に映像的。そのため「読む映画」としても評価されることが多い作品です。

では。

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『Bluetooth 5.1 SHOKZ OpenMove』は走る快感を変える骨伝導イヤホン

Bluetooth 5.1 SHOKZ OpenMove』

Shokz OpenMove ショックス オープンムーブ 骨伝導 イヤホン ワイヤレス : FOCAL POINT DIRECT - 通販 -  Yahoo!ショッピング

underTOWNのクルーであり友人のhr-d氏からオススメされていたランニングに纏わる諸々。

最近特に力を入れているらしく、その界隈の話もするわけですが、その時、というか以前から気にはなっていたが手を出せていなかったランニング中のお供を購入いたしました。

ランニング中というのは音楽やラジオを聴く絶好の機会とあって、何かしらは聴いているわけですが、今までは使用しなくなったワイヤレスイヤホンを使っていたんですよ。

それがついに壊れてきて、メイン機もまだ買ったばかりなのでランニング用にするのは気が引け、そこでついにランニング用をと。

ちなみに今メインで使用しているのがこちら

blcrackreverse.com

そして購入いたしました。そんなOpenMoveの特徴として。

骨伝導イヤホンながら、LeakSlayer™技術により音漏れを低減

・ランニングや通勤用だけでなく、在宅ワークとの相性も良い

・マルチポイント接続には非対応(スマホとPCの同時接続不可)

・SHOKZ製品で初めてUSB-C充電ポートを採用したモデル

・耳に入れず、耳に触れず、こめかみ部分から音を伝える設計

・長時間装着しても耳が疲れにくく、聴覚過敏の人にも人気

Bluetooth 5.1対応で接続の安定性と省電力性が向上

骨伝導タイプってどうしても先入観というか、なんかちゃんと聴こえるのかとか、落ちないのかとか思っていたのですが、そんな心配は杞憂に終わり。

結論から言うと、音質はさすがに低音は弱く、密閉されていないために拡散してしまうところはあります。

ですが、環境音と楽曲の重なりは新鮮で心地良く、耳元でスピーカーからの音を聴いているかのよう。

音に集中するというよりは自然と音が一体化するというようなシンクロ感。

この”一体感のある親和性”が非常に爽快。これが一番の強みですね。

骨伝導恐るべし。

あとはネックタイプの装着性。

これも予想以上に安定感があり、全然ブレない。

強風の日も使用しましたが、全く問題無し。

ワイヤレスイヤホンをしていた時には強風だと音がブレ、不快なノイズとして、走りに集中できないなんてことが間々あったんですよ。

くわえて、雨や汗で耳との隙間に入ると抜けてきてしまったりと、以外にも不便な部分が多かったのですが、このSHOKZの製品は伊達にこうした使用で鍛えられていない。

となると上位機種との比較になるわけですが、とりあえずこんな感じ。

価格帯とのバランス、評判等を読んでもとりあえずOpenMoveで問題無いかなと思ったので買ってみたのですが、問題ないどころか満足度高し。

まだそこまで使用しているわけでは無いので耐久性はどうなのかですが、今の所はかなり満足しております。

では。


 

『本陣殺人事件』──赤の構図と無音が魅せる異形のミステリー

『本陣殺人事件』

本陣殺人事件 [DVD]

横溝正史の同名推理小説の映画化で、地方の由緒正しい旧家で行った“密室殺人”を描いた推理映画。脚本・監督は「餓鬼草紙」の高林陽一、撮影は「子連れ狼 冥府魔道」の森田富士郎がそれぞれ担当。

横溝正史原作といえば市川崑監督のイメージが強いところがありますが、最近のミステリー熱から、こちらも観てみることに。

監督は高林陽一、そう聞いてもピンとこないというのが正直なところなのですが、予想以上に市川崑的というか、要所要所で似ているところがあるなという印象。

まず、OPのカラフルなルックが印象的で、最初はあれが何を表しているのか、美しい火花のような、閃光のような。

それが終盤で何によるものなのかがわかるわけですが、わかってもなお美しい。

画作りに関して、鮮烈な赤をアクセントに、構図の一枚画のような抜かり無き配置、この辺が市川崑的な部分だとは思いつつ、その辺の見せ方は非常にサスペンスを予感させ、魅力的に映る。

ではそれ以外はという話なのですが、基本的に楽曲を使わずに展開するシリアスさというか不気味さ、事物的なものにより発生する効果音や人の会話による音のみが存在し、それ以外が無音による演出というのは高林監督ならではのものであって、何とも禍々しさや生々しさが宿り、不気味さを際立たせる。

実験的で静的、詩的な表現というのは1975年制作にあって、かなりアヴァンギャルドな作りだったのは間違いないでしょう。

このスタイリッシュさと不気味さのバランスが見事な作り。

音が無いゆえに、ある時の、画だけで、ぞっとさせるような怖さがある。

先導役としてまさかの中尾彬演じる金田一耕助も印象的で、まず、中尾彬が普通に喋っており、いで立ちもデニムという意外性。

石坂浩二演じる金田一の印象が強過ぎるが故に、異質には感じましたが、慣れるとそこまで気にならず。

コミカルさが先行する石坂浩二と対照的な語り部としての中尾彬。これもまた詩的な映像表現ゆえの静かな進行が表出している表れでしょうか。

話の本筋におけるトリッキーさは横溝正史だけに予想を裏切る斬新なもの。

現代において、というか実際に可能なのかという部分含め意外過ぎるというのはありますが、それでもある種の理には適った、憎悪と狂気、残忍さ、当時だからこその世相を感じさせるような文脈というのは今見ても斬新に映る。

まずもって当時と世相が違いますからね。人々の思考、生活など。

「鈴ちゃんはやっぱり亡くなったか」

という始まりからして、におわせのムードをぷんぷんに纏い、あの光景自体が今は無き風習の名残として新鮮に映る。

婚礼の場における琴の見事さと、美しさ、これが伏線となる予兆も込みで、時代性に宿る当時のお家独特な感覚が共存している。

鈴ちゃんもそうですが、なぜ昔の殺人事件ものには謎めいた人物、明らかに奇妙な人物が存在するのでしょう。

これ自体が時代、世相的なものからくるのか。

当時と今では恐怖とする感覚も違うために生じる設定なのかと思うと、時代の変遷は興味深く、面白いもの。

原作を重視しつつ、詩的な映像としてのコミットの施し方。田園風景や雪景色など、あくまでも詩的な部分にフォーカスしたミステリーという点で鑑みれば、本筋以上に世界観の構築は差別化されていたのではないでしょうか。

興行的にはいまいちだったようですが、文学性を残したような映像表現、画作りへのこだわりというのが垣間見え、カルト的な一部には人気があるというのも頷けるところではあります。

では。


 


 

なぜ『オールドスパイス』は“フィジー”に帰結するのか?香りと記憶の関係

『オールドスパイス フィジー』

制汗剤として、海外のものって何故だか魅力的に映るといいますか、匂いがそうさせるのか、ビジュアルがそう見せるのか。

オールドスパイス自体は学生時代から憧れであり、マイスタンダードでもあり。

わりと色々なものを試してきたんですが、やっぱり戻ってくるのがこちらの”フィジー”。

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大抵はピュアスポーツに落ち着く人が多いかなという印象なのですが、私的には断然”フィジー”。

ルーティンで使用しているのはこのデオドラントのみなのですが、夏などはボディソープもあり。

南国をイメージさせるような香りと、そこまで強くない、でも確実に異国感漂う雰囲気。

なんか好きなんですよね。 

1. 南国フィジーではなく“南国っぽいフィジー”

「Fiji」はフィジー諸島をイメージしたネーミングですが、実際には南国感を演出した抽象的な香りで、原産地と直接の関係はありません。ココナッツやパイナップル、海辺を思わせるオゾン系ノートなどがブレンドされていて、「夏のビーチ」感を想起させます。

2. 香りの構成

トップノートにトロピカルフルーツ、ミドルにラベンダーやシトラス、ベースにムスクやサンダルウッドが香る構成。結果として、「日焼けしたカリフォルニア男子が付けてそうな匂い」とも形容されることがあります。

3. パッケージに隠れた“トロピカルギャグ”

オールドスパイスの製品パッケージには、時折ユーモアある小ネタやコピーが隠されています。たとえば「Fiji」の説明には、「Smells like palm trees, sunshine and freedom.」など、自由とココナッツの香りが混ざったような表現が使われており、軽妙なトーンが人気です。

夏が来たと感じさせるのはこうした制汗剤であったりビーサンであったり。

とはいえ通年使っているのがこのデオドラントなわけですが、これはスタンダードとして手放せない一品。

付け過ぎると意外に落ちずらいところがあるので、控えめに付けても全然1日持つかと思いますので。その辺は調整しつつ。

余談としてオールドスパイスの興味深い小ネタを。

1. 1937年生まれ、元は“船乗り向け香水”だった⁉

オールドスパイスは1937年にシフ社(Shulton Company)によって誕生。当初は「Early American Old Spice」というコロン(香水)がスタートで、しかもターゲットは女性向けだったという意外な出自があります。のちに男性用に特化し、現在の「男の香り」の象徴へ。

2. ロゴに描かれているのは“帆船”

海を思わせる「クラシカルな帆船」のロゴが特徴的。これは、創業当時の航海・冒険・男らしさを象徴するデザインで、「海の男にふさわしい香り」を連想させます。ブランド名の“Old Spice”も、古き良きスパイス貿易を彷彿とさせています。

3. ブランド復活のカギは“イカれたCM戦略”

2000年代後半に人気が低迷していたオールドスパイスを救ったのが、2010年の伝説的CM「The Man Your Man Could Smell Like」。
登場する男が、シャワー→海辺→馬に乗ってる、という怒涛の展開をワンカット風に演じるCMは大バズリし、SNSで一躍話題に。以後、“ぶっ飛んだ男らしさ”を売りにするブランドとして再ブレイク。

では。

 

『しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術』が仕掛けたマジシャン作家の罠とは?

『しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 』

驚愕! こんなことが出来るとは。マジシャンでもある著者が企んだ、「紙の本ならでは」の仕掛け。 未読の人には、絶対に本書のトリックを明かさないで下さい。

二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体〝惟霊(いれい)講会〟。超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ――。
マジシャンでもある著者が、この文庫本で試みた驚くべき企てを、どうか未読の方には明かさないでください。

この作りは奇想天外。

マジシャンである作者によって書かれたということ、触れ込みによる風呂敷の広げ方。

「未読の方には明かさないでください」という注意書きに最後に驚かされるという読後感。

ミステリーなる物語の宗教団体の真実を明かしていくという構造で話が進んでいくわけですが、それ自体もなんだかサイケデリックで、異国感、混沌さが漂うような世界の展開に引き込まれる。

どうやらこの主人公は作者の他作でも登場するようで、中々に癖強なネーミングとキャラクターが光る。

主人公ヨギガンジーって。

どういう物語なのかと思いながら進めて行く感じ、それでいて全く想像もつかない要素の連続。

はっきりいって宗教団体を舞台に話が展開するという時点で多くの人が馴染みも無く、その仕組み、構造自体が得てして謎めいているわけですよね。

そこへ怖いもの見たさというか、変な興味もブーストされ・・・

登場人物もそこまで多くなく、読み易いことは読み易いものの、起きている事象がどのように本筋に関わるのかというところは非常に曖昧で、全てが伏線にすら思えるような混沌とした作り。

ただ、それすらも作者の術中にはまっているのかもしれないと思いながら読み進めるものの、正直、驚きの事実というのは絶対に解けないのではないでしょうか。

それが何を指しているのか、あくまでもそこは知らずに、読んでいく過程のみを愉しんでみてはいかがでしょうか。

ちなみに、そのミステリー的なる要素のヒントは各所に散りばめられており、最後の種明かしでは確実に全てが腑に落ちる構造になっているのでその辺は良くできているなと思わされます。

では。

1. 本格×奇術×スピリチュアルの異色ミックス
泡坂妻夫といえば奇術師(プロのマジシャン)としても活動していた作家。この作品もその特性が強く活かされており、心霊術や超常現象風の事件を扱いつつも、すべて合理的なロジックで解決されます。ヨギガンジーの言動も含めて、どこか奇術的。

 

2. “迷探偵”ヨギガンジーというキャラの妙
「迷探偵」と冠されたヨギガンジーは、胡散臭さと知性を併せ持つキャラで、読者を煙に巻く存在。だが、実は超論理的で精密な推理を行う名探偵。泡坂妻夫お得意の、「トリックとキャラの裏切り」の妙が光ります。

 

3. 表題作の“しあわせの書”はただの小道具ではない
作中で重要アイテムとなる“しあわせの書”は、宗教的にも自己啓発的にも見えるけれど、ミステリ上のギミックとして極めて重要。タイトルから想像される内容とのズレを、泡坂妻夫はあえて狙っています。

 

4. 1970~80年代の“和製スピリチュアル”風俗も反映
インチキ霊能者や新興宗教を皮肉っぽく描く描写には、**当時の世相(オカルトブームや自己啓発本の流行)**も反映されています。そこに泡坂らしい遊び心とトリックが乗ることで、単なる時代小説ではない、ユニークな魅力が生まれています。


 

『屍人荘の殺人』は綾辻×ロメロのハイブリッドだ!

『屍人荘の殺人』

神紅大学ミステリ愛好会会長であり『名探偵』の明智恭介とその助手、葉村譲は、同じ大学に通うもう一人の名探偵、剣崎比留子と共に曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、ペンション紫湛荘を訪れる。初日の夜、彼らは想像だになかった事態に見舞われ荘内に籠城を余儀なくされるが、それは連続殺人の幕開けに過ぎなかった。たった一時間半で世界は一変した。数々のミステリランキングで1位に輝いた第27回鮎川哲也賞受賞作!

ミステリーは面白い。

何事にもタイミングというものがあるわけで、好きなもの、ことにもタイミングがある。

何故か唐突にミステリー系が読みたくなり、積読本から手に取ったわけですが、惹きこまれる吸引力が半端じゃない。

金田一、コナン世代の私としてはこうした探偵殺人ものというのは潜在的に興味関心がそそられるわけですが、やはり、こういう話は面白い。

というかこの本が秀逸過ぎる。

冒頭はありがちな展開と設定に始まり、日常シークエンスにおける、わかりやすい形で話は進行していく。

そこから転がるようにどんどん加速していくわけですが、そのスピードと広がりが予想以上。

なんといってもその設定。

本格ミステリ綾辻行人アガサ・クリスティの流れ

×

ホラー/ゾンビもの:ロメロ的な絶望的サバイバル状況

×

サスペンス:緊張感のある心理戦と人間模様

全てをばらして考えればそこまで突飛なものは無いのですが、複合して、この出し方をされると火力が爆発的に増してくる。

人物の配置やバランスも気が利いていて、謎が解けていくにつれ、なるほどと思わされるし、その過程においても逆に翻弄されるという。

設定もそうで、まるでシーソーのようにどこかでバランスを取ればどこかで不都合が生じていく。

このバランス感覚と伏線の張り方、回収の仕方がとにかく秀逸。

複雑に絡み合うそれらが、読後にはスルッと解けているという。

それでいて読んでいる渦中においては解けそうで解け無い感覚があり、気になるフックも全てが巧妙に仕組まれている。

どうやって考えたらこのような構成が考え付くのか。

調べると本人はこんなことを語っており

ゾンビ映画のような極限状況の中でも、本格ミステリとしてロジックを通したいと思った」

綾辻行人先生の『十角館の殺人』は自分のミステリ観の出発点だった」

とのこと。

綾辻行人十角館の殺人』も衝撃でしたからね。

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ちなみに影響という意味では下記もあるとのこと。

主な影響作品・作家


1. 『十角館の殺人』(綾辻行人
今村昌弘自身が明言している最大の影響作品の一つ。

クローズド・サークル(外界と隔絶された状況)と本格ミステリの融合という構造が、『屍人荘の殺人』にも色濃く反映されています。

新本格」の代表作として、構成面・トリック面ともに模範としたそうです。

2. 『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティ
十角館の殺人』のさらに元ネタともいえる作品。

閉鎖空間で一人ずつ死んでいく構成は、『屍人荘の殺人』の骨格と重なります。

3. ホラー・ゾンビ映画(特に『ゾンビ』ジョージ・A・ロメロ
今村はホラー映画ファンでもあり、「ゾンビ×本格ミステリ」という異色の組み合わせは彼独自の発想。

『屍人荘の殺人』の革新性は、このジャンル融合にあると評価されています。

4. 貴志祐介の作品(例:『クリムゾンの迷宮』など)
サスペンスやスリラー的な要素の取り入れ方において影響を受けているとされています。

生死をかけた閉鎖環境における人間描写などが通じます。

ゾンビを単に恐怖の対象として描くだけでなく、その社会性や本質に迫る革新性。

なぜゾンビなのか、なぜこの背景なのか。

バックボーンと必然性における諸々も飲み込み、ミステリーを巻き込んで昇華させる手際の良さ。

発想と真相、仕込まれたトリック。

いやぁ、面白かった。

とにかく解けそうで解けない、それでいてどんどん引き込まれ気になるストーリーを堪能下さい。

では。

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記憶は曖昧でこそ美しい|『話の終わり』の文体の魔法が心に残る理由

『話の終わり』

話の終わり (白水Uブックス) | リディア・デイヴィス, 岸本 佐知子 |本 | 通販 | Amazon

書くことをめぐる無二の長編

 「翻訳の仕事をしていると、たまに「自分が今までに訳したものの中で一冊だけ自分が書いたことにできるなら何か」と質問されることがある。そんなとき、私はいつだって「『話の終わり』!」と即答してきた。それくらい私にとっては愛着の深い作品だ」(本書「訳者あとがき」より)
 語り手の〈私〉は12歳年下の恋人と別れて何年も経ってから、交際していた数か月間の出来事を記憶の中から掘り起こし、かつての恋愛の一部始終を再現しようと試みる。だが記憶はそこここでぼやけ、歪み、欠落し、捏造される。正確に記そうとすればするほど事実は指先からこぼれ落ち、物語に嵌めこまれるのを拒む――
 ミランダ・ジュライなど下の世代の作家にもファンの多い「アメリカ文学の静かな巨人」デイヴィスの、代表作との呼び声高い長編が待望の復刊! デイヴィス作品三か月連続刊行第一弾。

リディア・デイヴィスによる唯一の長編作品。

何故か気になり、手に取り、惹き込まれる。

摩訶不思議な並行世界へと誘われる感覚は独特であり新鮮。

読んでいくテンポが心地良く、流れるように読み進める感覚が不可思議。

ストーリーというものがあるとすればそれは精巧で考え抜かれたもの、テーマ性が合ってこそのものだと思うわけですが、本作にはそれと対局にあるような気がする。

このように書くとストーリー性が無いのかと思われるかもしれませんが、むしろその逆、物語は”恋人との記憶”という、あくまでも私的な結論が存在し、回顧録とも言えるようなはっきりとしたものが横たわっている。

それなのになぜだろう、ふわふわとしたような手触りが残る。

主格をいくつも置き、時系列をバラバラにすることで得られていると感じるこの感覚。

意図してやった、というよりも必要だからやったというこの技巧にこそ、その本質が宿るわけですが、彼女の文体そのもの、言葉遣い、語彙というものが相まってなお、そのように感じるのも確か。

実際の恋愛というもの自体がそうですよね。

今にして思えば、起きていることは全て過去であって、その期間にも差異があり、明確に、何が、いつ、どこで、どのように起きたのかなどは朧気なもの。

時系列に記録として書こうとしているならまだしも、記憶として連綿と紡ごうとすればチグハグになるというのは至極当たり前。

脳内で起きるアンバランスな記憶を主体的に辿れるという点に面白さがあるわけで、ぼんやりと輪郭を描き出す作業はさながら自分の記憶を思い出しているかのよう。

文体の独創性というところでいうと、端的で、洗練され、ソリッドさが際立つ。それでいて空気感を纏った文脈の端々にその時の風景が投射され、感覚として訴えかけてくる趣がある。

そこに行ったことがないはずなのに、なぜかいたような気にさせる同調性。まるで記憶の断片から侵入した、世界の一端を味わっているかのような。

文字におけるテンポというもの寄与しており、これには翻訳の岸本佐知子さんによる言葉選びも影響しているのは間違いないのでしょうが、サクサクと読み進められ、どこで読むのを止めても読み出せばすぐにまたあの世界に入り込めてしまう。

思い出にによる表象ゆえの完全でないゆるりとした没入。この曖昧な物語への参画というのは独特な気持ち良さに溢れている。

こうしたチグハグな作りであり、このように没入できる部分として抱いたことがある、それは”小説は曖昧な認識で構わない”というもの。

頭ではわかっていたものの、意外に真に理解していなかった部分であって、どういうことかというと、つまりは日常で起きていることなんて鮮明に記憶していないわけで、それでもおおよその流れ、関係性、事象というのは理解しているわけですよね。

例えば誰かと旅行に行ったということがあっても、計画から旅行の内容、会話、そうした全てを記憶しているわけでなく、断片的なそれらの積み重ねにより、結果としてどうだったか。その蓄積が後々の思いへとつながっていくわけです。

では、全て覚えてない思い出は意味が無いのでしょうか。

頭の中で捏造されようが、脚色されようが、何だっていいんですよ。

自分にとってのそれが思い出なわけで。

それと一緒で、小説を読むに際しても人物名、場所、セリフ、それらのどれを覚えていて、どれを覚えてなくてもそれが今の自分の答えであり取り留めたもの。

内容が抜け落ちてようが、認識が違ってようが、人物を間違えていようが、はっきり言って関係ない。

だってそれが自分の感想ですから。

また読み返して感想が変わったって良い。

それがこの小説を読んでいるどこかで抱いた最大の収穫。

大事なことは読んでいてなんとなく心地が良いとか、世界観に浸れるとか、そんなことで全然構わない。

それで自分が楽しめればそれで最高じゃないですか。

物語と記憶を辿る本作の試作、そこに小説を書くということの思慮も加わり、独特で不可思議な現実味のある、非現実的な世界を辿る物語。

当たり前の日常であっても、恋愛というある種マジックリアリズム的な作用は見方を変えればこうも面白く映るのです。

では。